海野素央の Love Trumps Hate

2020年1月14日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

10日、オハイオ州トレドで行われた集会会場に入場するトランプ大統領(AP/AFLO)

 今回のテーマは、「トランプがイラン司令官殺害で得たもの」です。ドナルド・トランプ米大統領は1月9日(日本時間午前1時半ごろ)、ホワイトハウスでイランの報復攻撃に関して、米国民に向けて約9分間の演説を行いました。翌10日、中西部オハイオ州トレドで支持者を集めた集会を開き、そこでも演説をしています。

 この2つの演説を聞くと、トランプ大統領がイランのカセム・ソレイマニ司令官殺害によって何を得たのかが分かります。そこで本稿では、トランプ氏が獲得したものを中心に述べます。

演説の入り方と終わり方

 対イラン演説は現地時間の午前11時半ごろに始まりました。ところが、トランプ大統領は「グッド・モーニング」と米国民に呼びかけてから演説を行うのではなく、いきなり「私が米大統領である限り、イランに核兵器を決して所有させない」と、強くクギを刺しました。通常でれば、米大統領は「グッド・モーニング」ないし「グッド・イブニング」と述べてから、演説を開始します。

 異例な入り方でした。それだけイランに対して圧力をかけて、軍事的報復を抑えたかったのでしょう。「強い指導者」を見せつけました。

 演説の最後もトランプ流がにじみ出ています。トランプ氏は「イランの人々と指導者にすばらしい未来があることを望んでいる」と述べて締めくくりました。演説の入り方と終わり方の声のトーンも、全く異なっています。ハードとソフトのトーンを使い分けていました。

 この硬軟織り交ぜたやり方は、北朝鮮に対するアプローチと類似しています。

2人は「選挙材料」

 まず、トランプ大統領はイランによるイラクの米軍駐留基地を狙ったミサイル攻撃について、「死傷者は出なかった」と強調しました。トランプ政権は適切に対処できたというメッセージを、米国民に発信する意図があったことは確かです。

 次にトランプ氏はソレイマニ司令官を「世界一のテロリスト」と呼び、司令官を殺害した成果に訴えました。そのうえで、「彼(ソレイマニ氏)はもっと前に除去されるべき人物だった」と主張しました。1月6日に放送された保守派の代表的ラジオパーソナリティの1人であるラッシュ・リンボー氏の番組においても、同様の発言を行っています。

 ブッシュ・オバマ両政権はソレイマニ司令官殺害は、リスクが高いと判断し、司令官の殺害を見送ってきたといわれています。しかし、トランプ大統領は司令官殺害を実行に移しました。

 「自分はブッシュ・オバマ両政権がやり残した仕事を遂行した」と、言いたかったのでしょう。周知の通り、トランプ大統領は特にオバマ前大統領を意識しています。

 加えて、トランプ大統領が演説の中でイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の指導者アブバクル・バグダディ容疑者殺害について言及した理由は、「2人の怪物を葬った」というメッセージを発信して、政治的得点を稼ごうとしたからです。

 トランプ大統領はトレドでの集会で、殺害したソレイマニ司令官とバグダディ容疑者をセットにして、成果をアピールしました。すでに、2人はトランプ再選のための「選挙材料」として利用されています。

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