2024年12月23日(月)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年11月28日

 今回のテーマは「トランプ弾劾公聴会で見えてきたこと」です。トランプ弾劾公聴会は米連邦議会下院情報委員会において5日間にわたり開催され、合計12人が証言を行い終了しました。

 下院情報委員会で主導的役割を果たした野党民主党は、重要証言を得ることができたのでしょうか。それに対して、ドナルド・トランプ米大統領及び与党共和党は、どのような反論をしているのでしょうか。本稿では下院情報員会での公聴会を総括します。

( REUTERS/AFLO)

完成したパズル

 弾劾公聴会のトップバターを務めたウイリアム・テイラー駐ウクライナ代理大使は11月13日、部下がウクライナの首都キエフのレストランで、ゴードン・ソンドランド欧州連合(EU)大使がドナルド・トランプ米大統領と携帯電話でバイデン親子に関する汚職疑惑調査について会話をしているのを聞いたと証言しました。これに関して共和党は、テイラー氏の証言内容は「又聞きである」と非難しました。

 ところが、テイラー代理大使の部下である在ウクライナ米大使館のデービッド・ホームズ参事官が同月21日、公聴会で証言を行うと、同大使の「又聞き」が正確であることが分かりました。ホームズ参事官は、レストランでのトランプ大統領とソンドランドEU大使の会話の様子を、動作を交えながら詳細に描きました。

 例えばホームズ参事官は、ウクライナがバイデン親子の調査を実施するのか気にかけていたトランプ大統領に対して、ソンドランド大使が「(ウクライナの)ゼレンスキー大統領はあなたのケツが好きだ。あなたの頼んだことは何でもやる」と答えているのを直に聞いたと証言しました。加えて、ソンドランド氏がトランプ大統領はウクライナよりもバイデン親子の調査に関心があると答えたというのです。

 この会話は7月25日のトランプ大統領とゼレンスキー大統領による例の電話会談の翌26日に行われました。ソンドランドEU大使はテイラー代理大使及びホームズ参事官の証言に異を唱えていません。しかも公聴会でソンドラン氏は笑顔を浮かべながら、トランプ大統領と下品な会話をすることも認めました。

 さらに、ソンドランドEU大使はトランプ大統領との首脳会談実現がウクライナへの「見返り」であり、トランプ大統領の「指示」で動いていたと、今回の疑惑の核心について重要証言をしました。

 続けて、ソンドランドEU大使の口から爆弾発言が飛び出ました。マイク・ペンス副大統領、マイク・ポンぺオ国務長官及びミック・マルバニー大統領首席補佐官代行も「見返り」を認識しており、彼らはウクライナ疑惑の「ループ(輪)」の中にいると証言したのです。つまり、トランプ政権の中枢が疑惑に関与しているということです。これも極めて重要な証言といえます。

 他の証人もソンドランドEU大使に関して証言を行いました。テイラー代理大使によれば、米CNNにゼレンスキー大統領を出演させ、バイデン親子に関する調査を発表させようとしたのは、ソンドランド大使でした。元国家安全保障会議(NSC)の欧州ロシア上級部長であったフィオナ・ヒル氏は、ソンドラン大使は「外交政策ではなく国内政治の使い走り」と証言しました。ソンドラン氏は米国の国益ではなく、トランプ大統領個人の政治的利益のために使い走りしていたという意味です。

 今回の弾劾公聴会で下院情報員会のアダム・シフ委員長(民主党)は、トランプ大統領弾劾に向けてパズルのピースが組み合わさって完成したという実感を得たでしょう。

トランプは一体何を狙っていたのか?

 ウクライナ疑惑ではバイデン親子に対する汚職疑惑調査に加えて、2016年米大統領選挙においてロシアではなくウクライナが選挙介入したという「陰謀論」にも焦点が当たっています。ヒル元上級部長は「ウクライナ介入説」に関して、ロシアの諜報機関が拡散した「虚構の物語」であると証言しました。

 その上で、ヒル氏は元ニューヨーク市長のルディ・ジュリアーニ氏がトランプ大統領にウクライナ介入説を吹き込んだとも証言しました。

 米情報機関はロシアが16年大統領選挙に介入したと結論づけています。この結論はトランプ大統領にとって、自分の当選の正当性を揺るがすことになります。そこで同大統領は、選挙介入をしたのは、ウクライナのサイバーセキュリティーテクノロジー企業である「クラウドストライク」と民主党全国委員会(DNC)であるという結論を是が非でも導き出したいのです。

 仮にそうなれば、トランプ大統領は「外国政府による選挙介入の本当の被害者はヒラリー(クリントン元国務長官)ではなく自分である」と主張することが可能になるからです。トランプ大統領がウクライナ介入説にこだわる理由はそこにあります。


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