もしバイデン親子の調査が実施されていたら……
公聴会でアレクサンダー・ヴィンドマン米陸軍中佐は、「米国との力関係を考えると、ウクライナはバイデン親子の調査を受け入れざるを得なかっただろう」と述べました。さらに、汚職大国である「ウクライナが公正な調査を実施するのか疑わしい」という見解も示しました。
となると、おそらくトランプ大統領には以下のような思惑があったのでしょう。
まず、米CNNの番組にゼレンスキー大統領を出演させ、バイデン親子に関する汚職疑惑調査を開始すると発表させます。そうさせることによって、同大統領は調査結果を発表する義務を負います。
次に、例えばですが、軍事支援追加を新たな見返りにして、バイデン親子に対して否定的な調査結果を出すようにウクライナに対して要求します。調査結果の発表も、米国の番組で行わせたでしょう。
加えて、トランプ大統領は調査結果の発表のタイミングについても、ゼレンスキー大統領に圧力をかけたはずです。
前回の選挙ではクリントン元国務長官の「メール問題」を巡る調査を再開すると、ジェームズ・コミー米連邦捜査局(FBI)長官が投票日の11日前に発表しました。これがクリントン陣営に取り返しのつかないダメージを与えました。つまり、バイデン親子を傷つける場合も、どのタイミングで発表するのかが極めて重要になります。
いずれにしても、上で述べたトランプ大統領の思惑は、内部告発者の告発によりすべて吹っ飛んでしまいました。
トランプと共和党の反撃
トランプ大統領と共和党は早速反撃に出ました。トランプ氏は保守系の米FOXニュースのインタビューの中で、「彼(ソンドランドEU大使)のことはほどんど知らない。2、3回話しただけだ」と語り、同大使と距離を置きました。
前述しましたが、トランプ大統領とソンドラン氏の関係は、同氏がレストランから大統領に電話を入れることができる関係です。しかも、大統領と下品な会話を交わす関係でもあります。
トランプ大統領は、自分に不利な証言をした証人に「反トランプ」というレッテルを貼りましたが、彼らの証言は非常に具体的であり信憑性が高いといえます。
さらに、トランプ大統領はウクライナの汚職撲滅に取り組んでいると主張していますが、公開されたゼレンスキー大統領との2回の通話記録を読むと、腐敗に関する記述がありません。
軍事支援に関してはトランプ大統領は、「どうして汚職にまみれた国に支援しなければならないのか」と主張し、「米国ではなくドイツやフランスといった欧州諸国が実施すべきだ」と議論しています。一見正論に聞こえますが、ウクライナ疑惑の争点を逸らしているのでしょう。
一方与党共和党は、「軍事支援はウクライナに提供された」「バイデン親子に関する調査は行われなかった」の2点を柱に反論しています。ただ、ウクライナへの軍事支援は7月18日に凍結され、55日後の9月11日に提供されました。内部告発者が告発した直後です。ここもポイントになります。
結局、今回の公聴会において証人からこの55日間の空白を埋める証言が出ました。