2024年11月22日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2020年1月14日

「公約厳守」を選択したトランプ

 トランプ大統領は自身のツイッターに、「イランが報復すれば、米国はすばやくかつ激しく反撃する」と投稿しました。しかし、演説では「米国は偉大な軍と装備品を備えているが、軍事力を行使したくない」と述べました。

 トランプ大統領には戦時の指揮官になり、愛国心を煽り、支持層拡大と支持率アップを狙うという選択肢があったはずです。支持率を現在の40%前後から50%台に乗せれば、再選が確実になってきます。

 ちなみに、ギャラップ社の世論調査によれば、バラク・オバマ前大統領の再選直前の支持率は、51%(2012年11月5―11日平均値)でした。一方、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の支持率は48%(2004年10月29-31日平均値)、ビル・クリントン元大統領は54%(1996年10月26-29日平均値)でした。つまり、再選された上の3人の大統領を見る限りでは、40%後半から50%前半が安全圏内ということになります。

 トランプ大統領は新たな戦争への道は選ばず、イランに対して追加制裁を科すという選択肢を選びました。トランプ氏は支持者を集めた集会で、「自分は若い米兵士を帰国させるために選ばれた大統領だ」と繰り返し主張します。

 昨年、南部フロリダ州オーランドで開催されたトランプ集会で、筆者は「トランプを支持するバイクの愛好家」団体に所属する50代の白人男性にイラン問題についてインタビューを実施しました。彼は「イランとの戦争は反対だ」と、明確に回答しました。世界の出来事に対する米国の不関与が、トランプ支持者のスタンスです。

 結局、トランプ大統領はイランとの戦争よりも「公約厳守」を選択した方が得策であると判断したのでしょう。

再選の新たな「武器」

 トランプ大統領はトレドでの集会で、ソレイマニ司令官殺害の理由を明かしました。親イラン派のデモ隊が昨年12月31日、イラクの首都バグダッドにある米大使館を襲撃したとき、トランプ氏は即座に対応したので、「第2のベンガジ」になるのを食い止めることができたと、成果を強調しました。

 ベンガジとはリビア北東部に位置する都市を指しています。2012年9月、ベンガジで米領事館襲撃事件が発生し、駐リビア米大使を含めた4人が死亡しました。バグダッドの米大使館が「第2のベンガジ」になる可能性を強く懸念したトランプ大統領は、ソレイマニ司令官殺害を米軍に指示したというのです。

 ホワイトハウス記者団にも同日、トランプ大統領はソレイマニ司令官が「完全に組織化された陰謀」を企み、米大使館を襲撃したと主張しました。そのうえで、ソレイマニ司令官を米大使館襲撃の首謀者とみなし、仮に対応が遅れていたら死傷者が出ただろうという認識を示しました。

 『トランプがイラン司令官を殺害した本当の理由』で説明しましたが、ベンガジ米領事館襲撃事件が発生したとき、オバマ前大統領は再選の選挙を戦っていました。オバマ氏は事件の対応のまずさを非難され、それが選挙戦の争点になってしまいました。トランプ氏は、今回の選挙でそのような事態に陥るのを是が非でも避けたかった訳です。

 トランプ大統領はトレドでの演説の中で、ベンガジ米領事館襲撃事件に関して「(オバマ政権は)対応が遅すぎた」と指摘し、トランプ政権の素早い対処と比較しました。 

 この発言でトランプ大統領の思惑がはっきり見えました。 

 今年の再選の選挙で、トランプ氏はライバルの民主党候補に向かってこう迫るでしょう。

「オバマはベンガジで4人の死者を出した。私はバグダッドの米大使館が第2のベンガジになるのを阻止した」

 トランプ大統領はソレイマニ司令官殺害によって、再選のための新たな「武器」を手にしました。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る