2024年12月10日(火)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年12月27日

 今回のテーマは、「トランプ弾劾裁判の行方と2020年米大統領選挙への影響」です。米下院本会議で18日、ドナルド・トランプ大統領の「ウクライナ疑惑」を巡る2つの弾劾条項である「権力乱用」及び「議会妨害」が、野党民主党の賛成多数で可決されました。その結果、トランプ大統領は弾劾訴追され、舞台は下院から弾劾裁判が開催される上院に移る予定でした。

 ところがナンシー・ペロシ下院議長が、2つの条項を上院に送付しないために、裁判が開かれる目途が立っていません。そこで本稿では、まずペロシ下院議長の意図を探り、次に弾劾訴追が及ぼす20年米大統領選挙への影響について述べます。

下院本会議で可決させたペロシ議長(AP/AFLO)

トランプのペース

 トランプ大統領は18年米中間選挙で下院選ではなく、上院選に的を絞り、かなりの時間とエネルギーを割きました。筆者は北西部モンタナ州並びに西部アリゾナ州で開催されたトランプ集会で、与党共和党の上院議員候補を応援する大統領を現地で観察しました。

 同年中間選挙でトランプ大統領は共和党上院の議席を増やすと、野党民主党が下院で多数派を奪還したのにもかかわらず、「勝利宣言」を行ったのです。このとき、筆者はトランプ氏の反応に驚きと違和感を持ちました。

 そのナゾが今になって解明できました。トランプ大統領は将来の弾劾の可能性を視野に入れて、対策をとっていたのです。弾劾裁判が開催される上院で共和党が多数派を維持すれば、罷免は回避できるからです。

 トランプ大統領は、民主党が要求する証人の証言なしに、上院で即座に弾劾裁判が開催されることを強く望んでいます。共和党上院議員から20人以上の造反者が出る可能性はかなり低いので、「無罪判決」を勝ち取れると確信しているからです。事はトランプ大統領のペースで進んでいました。

ペロシ下院議長の思惑

 トランプ大統領に対する弾劾決議案が可決されると、ペロシ下院議長は異例の対応をとりました。下院で可決された弾劾条項を上院に送付しません。従って、上院での弾劾裁判の日程が立たないのです。

 ペロシ氏は民主党が要求する証人が証言を行い、トランプ政権がウクライナ疑惑に関する政府資料を提出しない限り、上院で「公平な弾劾裁判」を開くことはできないと、繰り返し主張しています。ちなみに、証人にはジョン・ボルトン元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が含まれています。

 では、なぜペロシ下院議長は弾劾条項を保留しているのでしょうか。

 まず、ペロシ下院議長には時間を稼いで、共和党上院議員の説得に当たるという思惑があるのではないかという見方があります。ただ、53人の共和党上院議員の中から、罷免に必要な20人以上の議員を説得するのは、かなりハードルが高いと言わざるを得ません。

 次に、ウクライナ疑惑に関して新たな証拠が出てくるのを待っているのではないかという指摘もあります。これに関しては、指摘通りになっています。

 米メディアによれば、ホワイトハウスの幹部が7月25日のトランプ大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の電話会談の91分後に、国防省の幹部に同国への軍事支援保留について連絡をとっていたことが明らかになりました。

 ただペロシ下院議長は、本当に上の2つの理由から弾劾条項を上院に送付しないのでしょうか。


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