“お家芸”の「標的殺害」
主にテロリストの指導者らを暗殺して米国の脅威を取り除く「標的殺害」はブッシュ、オバマ、トランプの歴代政権にわたって続けられてきた。その舞台は主に、イエメンやアフガニスタン、リビア、ソマリアなどで、特にオバマ政権はイエメンの国際テロ組織アルカイダに対する暗殺作戦を強化、“オバマの秘密戦争”として知られてきた。
オバマ政権が警戒したのはアルカイダ系組織の中で最強といわれた「アラビア半島のアルカイダ」がイエメン内戦の混乱を利用して勢力を拡大することだった。しかし、作戦は時折、誤爆を招き、結婚式の車列をテロ組織の移動と誤って判断し、民間人多数を殺傷する事件も起きた。
また作戦に当たっては中央情報局(CIA)と国防総省の縄張り争いも表面化し、イエメンの「標的殺害」については、国防総省の管轄に一括することとなった。アフガニスタンについては、パキスタンとの国境の山岳地帯が標的になり、より秘密性が必要となることから、CIAが無人機攻撃を担っている。
トランプ政権になってからも作戦は継続。米戦争専門誌によると、攻撃回数は2017年約125回だったが、2019年は8回と激減した。今回はこうした「標的殺害」がソレイマニ司令官やイエメンのシャハライ現地司令官に適用された。しかし、非国家のテロリストを対象としてきたこの手法が、イラン国家の要人に採用されたことに、一部から法的に問題であり、戦争の危険を招くとの批判が上がっている。今後論議を呼ぶのは必至。
トランプの発言に大きな疑問
トランプ米大統領は9日、米軍駐留のイラク軍基地にイランからミサイルの報復攻撃を受けた後、声明で武力行使を自制する声明を発表したが、極めて不機嫌だった。その理由は、「世界一のテロリスト」を殺害したにもかかわらず、議会を中心に戦争を誘発するとの批判が高まり、全面的な支持を受けなかったからだ。
こうした中で大統領は10日、フォックスニュースに対し、ソレイマニ司令官が「バグダッドを含め4つの大使館を狙っていた」と発言した。しかし、ポンペオ国務長官が「本当の脅威はあったが、いつ、どこが狙われているのか分からなかった」などと述べたように、国防長官も含め政府高官は「4つの大使館が狙われていた」事実を知らなかった。
トランプ大統領がソレイマニ司令官の脅威と殺害という成果を強調するあまり、過大に“フェイクニュース”(専門家)を発信した可能性が強い。大統領は昨年10月、過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者アブバクル・バグダディを殺害した際、「泣き叫び犬のように死んだ」と述べたが、トランプ大統領以外、高官の誰一人として「泣き叫んだ」のを聞いた者はいなかった。
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