2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年1月31日

 2020年は、1月3日の年初からイランのソレイマニ司令官が米軍によって殺害されるなど、中東情勢が緊張しているが、北東アジアの朝鮮半島でも、無視できない動きがありそうだ。

Barks_japan/iStock / Getty Images Plus

 1月7日の文在寅大統領の新年の辞は、多くを南北関係に割いたが、開城団地の再開や鉄道建設の推進など、南北関係を優先させ、米朝交渉に対して韓国が仲介するという姿勢が強く、余りに現実を踏まえないものだった。米国のハリス駐韓大使が、同日インタビューでの質問に答えて、「(南北協力は)米国との協議に基づきなされるべきだと考えている。我々は同盟国として緊密に共同で取り組むべきだ」と強調し、釘を刺した。それは当然であろう。

 1月13日付のコリアン・ヘラルド紙の社説は、南北関係推進に前のめりになる韓国の文在寅大統領の姿勢を批判する。「現実を無視した南北関係改善の試みは更なる北朝鮮の侮辱を招くだけだ」との主張は頷ける。また、目下米朝交渉は膠着化しているとの同社説の現状認識も間違いではないだろう。

 文在寅は、1月14日の年頭記者会見で、改めて南北関係が提起されても「対話を通じて協力を広げていこうとする努力は今も持続していて、十分にうまくやっていくことができる」とどこ吹く風である。 

 1月11日の北朝鮮外務省顧問の金桂寛(元核交渉代表)の談話は、韓国に対する辛辣な非難だった。青瓦台の鄭義溶安全保障室長が誇らしくトランプ大統領の金正恩委員長への誕生日祝意を北朝鮮に伝達したと発表したことについて、「北朝鮮は米国大統領からの親書として直接に受け取っている」と述べ、韓国政府のメンツは潰されてしまった。この点も新年の記者会見で質問されたが、文在寅大統領はメッセージ伝達を「私は非常に肯定的に評価したい」と述べた。 

 他方、米朝交渉について、北朝鮮の金桂寛は、米国が北朝鮮の主張を全面的に受け入れない限り対話はできない、制裁を解除する代わりに北朝鮮が主要核施設を廃棄するとした提案について「そのような交渉はもう二度とないだろう」と述べた。 

 米朝交渉は膠着状態に入りつつあるように見える。残念なことだが仕方がない。その間、北朝鮮の動きを注視しながら、①制裁の強化、維持を図ること、②北朝鮮とは意思疎通の努力を続けること、③不測の事態への対応を米国などと常に準備しておくことが重要であろう。

 1月10日、米国のオブライエン安全保障補佐官は、米国は昨年10月にスウェーデンのストックホルムで行われた実務者交渉を継続したいとの考えを北朝鮮に伝えていると述べた。1月14日、サンフランシスコ郊外で日米韓外相会談が行われ、北朝鮮政策について三国の連携を確認したことは、兎に角良いことであった。米中両国が、第一段階の貿易合意に署名した今、中国との連携も強めるべきだろう。 

 目下の状況について、北朝鮮も焦燥感を抱いているのではないかとも考えられる。北朝鮮の動きを注意深く見ていく必要があろう。世界の目は、今、中東に転じているが、この北東アジアの危険も見逃してはならない。もちろん、北朝鮮は、米国が年初からイランのソレイマニ司令官を殺害し、イランと米国の関係が緊張していることを見ている。米軍によるソレイマニの殺害は、北朝鮮にとっても大きな圧迫となっているだろう。

  
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