世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年12月18日

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 最近、ペルシャ湾岸諸国の間では、イエメン停戦に向けた動きやサウジとイランの対話の模索など、いくつかの外交活動が見られる。

(by-studio/iStock / Getty Images Plus)

 ペルシャ湾岸諸国の外交努力の中で一番進んでいるのが、イエメン戦争終結に向けての動きである。最近サウジとホーシー派が会談したと報じられており、サウジ政府はホーシー派の捕虜200人を解放したとのことである。この動きの中心にいるのがムハンマド皇太子の弟のハリッド・ビン・サルマン王子である。ハリッド・ビン・サルマン王子は若くして駐米大使を勤めたが、カショギ事件を弁護して米国、特に議会の強い反発を受けたこともあり、短期間で辞めている。この2月に国防副大臣に任命され、イエメン問題に取り組むこととなった。ハリッド・ビン・サルマン王子はムハンマド皇太子からイエメン戦争終結への努力の全面的権限を与えられているとのことである。ということはムハンマド皇太子がイエメン戦争の終結を望んでいることを意味する。

 イエメン戦争ではサウジの相次ぐ爆撃でイエメンの人口約2900万人のうち、約1000万人が飢えに直面するという未曽有の人道上の危機に陥り、サウジは国際的に非難された。その上戦費がかさみ、サウジの財政の大きな負担になっていた。ムハンマド皇太子としても矛を収める潮時と考えているのだろう。サウジとホーシー派反乱分子の会談は米国が強く奨励したものという。米国もイエメン戦争が中東情勢不安定化の一つの要因となっていることから、戦争の終結を望んでいるものとみられる。

 実は米国自身スイスの外交チャネルを通じ、捕虜交換のためイランと機微な対話を進めている。スイスはイラン革命の直後の1980年からイランとの関係で米国の利益代表を務めている。トランプ政権はイランに最大限の圧力を加えるという政策を進めているが、イランとの戦争は望んでいない。またイランと湾岸諸国とで紛争が起きても介入する気はない。イランと対決する一方でイランとの対話の糸口を探っているのだろう。イランのロウハニ大統領が12月20日頃訪日する見込みで、米国も了承済みと報じられているが、これも米・イラン対話に関わっていることは想像に難くない。

 トランプ政権は中東の紛争に介入する気はない。これはかつて米国がサウジの石油に頼る代わりにサウジの安全保障を引き受けていた時代とは様変わりである。米国がシェールオイルの開発で中東の石油に依存する必要が無くなったことが背景にある。ワシントンポスト紙のイグネイシャスは、11月27日付け同紙掲載の論説‘Belligerents in the Persian Gulf are trying something new: diplomacy’において、サウジやUAEなどは米国はあてにできないということで、外交努力をしている、と分析している。その通りだろう。イグネイシャスは、他方で、中東での外交活動が進捗するかどうかは、米国が何を望むかについてのより明確な示唆が必要であるとも述べている。これもその通りだろう。トランプ政権の中東政策は及び腰であるとはいえ、やはり中東情勢のカギを握っているのは米国なのである。

  
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