世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年11月1日

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 米軍の撤退を含む、トランプ大統領のシリア問題への対応には、その結果を見て、米国各紙が厳しく批判している。10月15日付のワシントン・ポスト紙の社説の表題は、「トランプのシリアでの失態は取り返しがつかない」と極めて直截である。10月14日付のニューヨーク・タイムズ紙の社説は、「トランプはシリアと中東を更に危険にしている」、同日付ウォール・ストリート紙社説は「トランプのシリアでの滅茶苦茶」と手厳しい。

Tigatelu/PeterHermesFurian/iStock / Getty Images Plus

 トランプ大統領は、各紙が言う通り、シリアで大失態を犯した。考えられない失敗であり、「取り返しのつかない」失態である。多くの心ある米国の人々はやり切れない思いでいるに違いない。恐らくこれはトランプ政権の最悪の失策として歴史に残るのであろう。大統領選の行方にも、大統領の適性、能力の問題として影響があるかもしれない。政治、外交をもう少し深刻に考えるべきだ。

 とり急ぎ並べてみた次の時系列を見れば如何に性急に事が進められたかが分かる。その間もトランプの対応は揺れた。

10月6日 トランプ大統領は、トルコのエルドアン大統領と電話会談し、トランプはトルコの作戦を容認した。
10月7日 米軍がシリアから一部撤収を開始した。
10月9日 エルドアン大統領は、ロシアのプーチン大統領と電話会談した。
10月9日 トルコがシリアの北部クルド地域への侵入を開始した。
10月13日 クルドは、シリアのアサド政権とのディールを締結した(ロシアが斡旋した)。
10月13日夜 シリア軍が進出を開始した。
10月13日 米国は維持不可能として米軍のシリアからの全面撤収を発表した。 

 今回の出来事については多くの考えることがある。

 第一は、トルコの間違った作戦と人道被害である。トルコを抑制し、最終的には撤退させねばならないだろう。詳細は未だ分からないが、相当の人道惨事が起きていると言われる。

 第二は、同盟関係が大きく転換したことである。米国はクルドを裏切り、クルドはアサドと連携し、ロシアと連携することになった。トランプ政権になって、クルドは米国に不信を抱き、アサドへの接近の兆候はあった。米国はシリアでの地歩を失った。築き上げたプレゼンスやIS打倒の成果も失った。

 第三は、深刻な米国の信頼失墜である。一度失った信頼の回復は容易ではない。5年に亘るシリアでの米軍とクルドの共同作戦は崩壊した。また、その成果やシリアの北東部の一定の安定も消滅してしまった。国防省は、米軍撤収に反対したというが、もっと反対できなかったのか。正にトランプ大統領の衝動、個人外交の惨事である。今後国際政治上の米国の影響力にも長期的な影響が出ることは不可避であろう。

 第四は、これまでのIS撲滅の成果の喪失である。クルド地域に拘束されていたIS要員約11,000人(内約 2000人が海外出身)が国内外に逃亡したという。

 米軍は撤収に当たり約5人の最重要拘束者の連行にも失敗したと言われる。ISは今後再結集するだろう。

 今回の出来事の勝者は、シリアのアサド政権、ロシアのプーチン大統領、イラン及びISである。今や中東はプーチン抜きには動かないこととなった。折しもプーチンは10月14日からサウジ訪問をした。

 10月14日、トランプ政権は、当初トルコの侵入を容認していたにも拘わらず、トルコへの制裁を決めた。すなわち、トルコから来る鉄鋼への関税を25%から 50%に引き上げ、トルコ国防省等の機関とその関係者などへの金融制裁等である。関税万能主義の効果は限られ、遅きに失するものである。制裁が必要だったのはずっと以前である。残念ながら、今後の対応はプーチンに話さねばならない。リベラルな国際秩序は崖っぷちに立たされている。

  
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