2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年11月11日

 トルコのエルドアン大統領は、9月の与党の会合で「西側はトルコが核弾頭付きのミサイルを持つことを認めないと言っているが、これは受け入れられない」と述べた。トルコには核武装する権利があるとの趣旨である。

(Andrey_Kuzmin/-1001-/Koszubarev/iStock Editorial / Getty Images Plus)

 エルドアンがNPTの制約から自由になることについて話したのは、これが初めてではない。エルドアンが核武装の意図を持っているとすれば、その狙いは戦略的には抑止の強化であり、政治的には発言権を強めることだろう。

 米国は、抑止については、トルコに配備している米国の核が役割を果たしているので、トルコが核武装する必要はないと言っている。しかし、エルドアンは自らの抑止力を持ちたいと考えているのだろう。トルコに配備している米国の50の核兵器は、トルコの核がどうなるかについて少し複雑な要素となっている。米国はこれまで公には配備を認めなかったが、10月15日にトランプ大統領が認めた。米国の核兵器はトルコに60年以上配備されてきた。米国の戦術核の配備を存続させることでトルコが自身の核兵器を持つことを防ぐというのがNATOの戦略であった。2016年7月のトルコでのクーデター未遂事件に際し、オバマ政権はインジルリク空軍基地から核兵器を撤去する案を密かに検討したが、撤去すればエルドアンにトルコの核武装の口実を与えかねないとして実施されなかった。トランプがトルコの核を引き揚げると言えば、トルコの核武装の可能性が高くなろう。

 政治的発言権については、核兵器の保有がそれを強めることは疑いない。北朝鮮がもし核を持っていない、あるいは核保有に努めているのでなかったら、誰も北朝鮮を相手にしないだろう。金正恩はだれよりもそれを知っている。トルコも同じことである。

 トルコには、ウラン資源を持っている、研究炉を既に運転している、といった、核計画にとっての強みがある。研究炉は使用済み燃料のプルトニウムの純度が軽水炉より高く、微量であっても核兵器用のプルトニウムが抽出できるという。核開発にとっての核心的技術は再処理と濃縮である。再処理については、イスタンブールの施設で使用済み燃料を扱っているようである。濃縮に必要な遠心分離機については、さる専門家が、トルコはかなりの数を持っている可能性があると述べている。

 しかし、トルコが本気で取り組んだとしても、核兵器を取得するには何年もかかるだろう。その間のコストとリスクは大きい。しかし、エルドアンは、財政的負担が大きく、また国際的に批判されるとしても核兵器計画を進めようとしてもおかしくない。彼の大国意識から言えば当然であろう。

 トルコの核開発推進にとってロシアの果たす役割は大きい。プーチンが正面からエルドアンの核武装の野心を支援することは考えられないが、ロシアは原発の推進をはじめいろいろな形でトルコを後押しするだろう。ロシアにとってトルコを少しでもNATOから遠ざけることはロシアの戦略に適うものである。

 中東ではすでに核兵器を持っているイスラエルを除き、イランが核開発で先頭に立っている。イラン核合意は、そのイランの核開発に歯止めをかけるものであったが、トランプが離脱を表明し、イランに対する最大限の圧力行使の政策を実施する今、イランが再び核開発に戻る恐れがある。サウジは、イランが核武装すればサウジもすると言っているが、核開発の実績はあまりない。そこにエルドアンが登場することになる。トルコの核開発の可能性は、当面波及効果はなさそうだが、進展具合によってはサウジやイランの反応を呼ぶことになるかもしれない。

  
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