2024年4月30日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年12月13日

 11月24日付米ワシントン・ポスト紙の社説は、トランプ大統領が韓国に対して、在韓米軍経費の負担を、今年の9.23億ドルから5倍の50億ドル(47億ドルとの説もある)へ増額するよう要求している対韓交渉の姿勢を、「近視眼的だ」と批判した。同時に、東アジアのいたるところで、米国の確固たる態度に対する疑念が生じていると、懸念を表明した。在韓米軍駐留経費の負担の5倍要求は、当初からの要求だとしても、無謀なトランプの同盟外交と言われても仕方がない。前方展開する米軍は、米国の安全保障にもなっているとの指摘は、当然の指摘である。

(sanchesnet1/iStock / Getty Images Plus)

 11月19日、米韓両国は、来年の在韓米軍経費負担特別協定(SMA)交渉をソウルで行った。これは、9月、10月に行った協議の継続でもあった。米国がここで、5倍の負担を要求し、韓国がこれを拒否したのを見て、米国は約1時間で交渉の席を立ったといわれる。米国は、今回交渉で新しく朝鮮半島に関連して海外で行われる作戦や演習などの経費負担を求めているようだ。米韓双方は、記者会見でお互いに相手を非難した。米国側は、国務省のディハート在韓米軍駐留経費交渉代表、韓国側は、外交部の鄭恩甫政府交渉代表が出席した。GSOMIAの取り扱いなどを含め、米国の対韓不信は極度に高くなっていた。今年3月に締結された現行協定は年末で終わる。昨年までは5年協定だったのに対して短期間になっている。韓国内には、既に年内妥結は無理だとの見方が出ているという。この交渉に先立って訪韓したエスパー国防長官は「韓国は裕福な国」であるとして増額を要求し、ハリス駐韓米国大使も、韓国側への働きかけを一段と強めている。そのため、一部韓国では、無礼だと批判されている。 

 在韓米軍削減の話も出てきている。11月21日には、SMA交渉に関連して、韓国が米国の要求に応じない場合に備え、トランプ政権は在韓米軍の一個旅団を撤収する方向で検討を行っていることが分かったと報道された。その有力候補は「第2師団所属の第1戦闘旅団(機械化歩兵旅団)」(歩兵4500人)と具体的部隊名まで言われた。これは韓国に大きな衝撃を与え、強い圧力になっている。 

 今、米韓同盟は軋んでいる。米軍経費負担や、日韓関係、南北関係、対中関係、南シナ海やインド太平洋政策への参加などにつき厄介な問題が山積し、緊張の度合いを強めている。韓国は、南シナ海やインド太平洋については、「新南方政策」を打ち出し、若干の対応を図っているようにも見える。11月26日の韓国・ASEAN サミットの共同議長ステートメントを読むと、間接的ではあるが、インド太平洋政策の支持に変わっているようにも見える。 

 今後も、米韓交渉を注視していく必要がある。日米交渉とも関係する。現行日米特別協定は2021年3月に終了するので、それに間に合うよう交渉する必要がある。7月に訪日したボルトン(当時の安全保障補佐官)は、日本に対し、現行から5倍の増額を求めたが、日本側はこれを拒否したと言われる。なお、今の米軍経費負担は、凡そ日本18億ドル、韓国9億ドル、ドイツ10億ドルとなっている。 

 文在寅大統領が可笑しな安全保障議論をしている。11月19日、文在寅は「国民との対話」の中で、「日本は米国が提供する安全保障の傘と韓国が提供する安全保障の防波堤により、少ない防衛費で自らの安全保障を維持している」と指摘し、「日本はGDPのうち防衛費支出が1%にも満たないが、韓国は2.6%に近い」とし、「韓国が多額の防衛費を投入し、それが日本の安全保障の助けになっている」として日本のフリーライドを主張した。この日本防波堤論は全く理屈のない、見識を問われる安保論議である。40年前に日本からの資金援助を得るために全斗煥政権が使った議論である。韓国が米国の要求に対抗する議論として、この日本フリーライド論を使っているとしたら由々しきことだ。 

 日韓GSOMIAは、韓国が急遽11月22日に終了通告の停止を決定し、維持されることになった。韓国は最終的には賢明な決定をした。米国の圧力が強力だった、特に米議会がGSOMIA維持を求める決議を全会一致で採択したことが決定的だったと思われる。しかし、今後の行方は引き続き予断を許さない。青瓦台は、条件付き維持(何時でも終了できる)だとするとともに、今後行われる日韓輸出管理協議を通じて、7月の日本の輸出管理強化措置の撤回を図ろうとしているからである。

  
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