日本と韓国の間の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)は、2016年に締結されて以来、北朝鮮がミサイルや核実験を繰り返す中、北東アジアの安全保障を支えてきた。
ところが、本年8月23日、韓国政府は、GSOMIAの破棄の通告を日本政府にしてきた。通告から3か月後、11月23日午前0時、同条約は失効することになっていた。日本はそれを望まなかったし、日本とも韓国とも同盟を組む米国も、同協定の破棄は東アジアの安全保障にとって好ましくないと考え、機会を捉えては韓国側に、GSOMIAを破棄しないように要請してきた。例えば、エスパー国防長官は、11月14日、韓国を訪問し、同協定の維持を要求した。それでも、なかなか韓国は、態度を変えなかったが、結局、失効になるぎりぎりの前日の11月22日の午後、GSOMIA破棄の通告を停止すると正式の発表があった。
ここで無視できないのが、この数時間前、11月21日、米国の上院において全会一致で可決された決議である。この決議は、インド太平洋地域における米国と同盟国の安全保障上の利益にとって日本と韓国のGSOMIAが重要であることを再確認したものである。以下、決議文を紹介する。
・日韓のGSOMIAは、北東アジア及びより広いインド太平洋地域の米国及び同盟国の利益を守るのに重要である。
・日韓の情報共有は、信頼を高め協力を増やし、共通の防衛安全保障利益を促進する。
・日韓の政府及び国民は、我々の共通防衛連携の促進と三国間協力の発展に多大な寄与をしてきた。
・日米韓三か国の防衛協力は、敵や外的の攻撃に対しても、新たな非伝統的挑戦に対しても抑止として機能する。
・GSOMIAの停止は、米国の安全保障を直接傷つける。現在、北朝鮮は、挑発の度合いを上げてきているところである。今年に入り、12回、20発の弾道ミサイルの実験を行なった。新しいタイプの核弾道、地上及び海上発射型も含まれる。
・中国、北朝鮮及びロシアは、日韓の摩擦や日米韓三か国協力や二国間同盟から起こる緊張に、付け入ろうとしている。
・米国政府及び国民は、日本及び韓国の連携を評価する。それは、地域の安全保障と繁栄を支える。インド太平洋地域において、海洋安全保障や航行の自由を守ったり、投資や貿易を促進したり、法の支配を推進したり、威圧や武力に反対したりする。
・情報共有を強化することは、日米韓三か国の協力の将来にとって重要であり、三か国が、北朝鮮の不安定な行動による挑戦や中国その他台頭する脅威に対処するのに役立つ。よって、上院は、次の6点を決議する。
(1) 日韓GSOMIAの重要性を再確認する。それは、重要な軍事情報共有協定であり、インド太平洋の安全保障、防衛、特に、北朝鮮からの核及びミサイル脅威への対抗として重要である。
(2) インド太平洋地域における平和、安定及び安全保障の促進に、日米同盟及び米韓同盟の死活的役割を強調する。
(3) 日韓の摩擦は、地域を分裂させるだけで扇動者を力づけるだけである。
(4) 韓国には、地域の安全保障協力を害し得る潜在的措置の扱い方を検討するよう強く促す。
(5) 日韓の政府が信頼を再構築し二国間の摩擦の原因を取り除き、重要な防衛と安全保障関係を他の二国間問題と切り離し、朝鮮半島の非核化や自由貿易、安定したインド太平洋地域等共通の利益で協力を推進することを奨励する。
(6) 日米韓二国間及び三国間の外交、経済、安全保障及び人的交流を強化、深化させて行く。
参考:“S.Res.435 - A resolution reaffirming the importance of the General Security of Military Information Agreement between the Republic of Korea and Japan, and for other purposes.”
リッシュ上院外務委員会委員長は、北朝鮮、中国及びロシアの脅威と闘うには、ますます二国間、日米韓三国間の緊密な協力が必要になってくるので、GSOMIAの維持は、地域の平和と安定及び米国の安全保障に不可欠であり、韓国には引き続き協定に参加することを要請する、と述べた。
インホフェ上院軍事委員会委員長も、日韓で軍事情報を共有する協定GSOMIAは、インド太平洋地域における我々の相互安全保障利益を守る道具であり、私はそれを支援する法案を出せたことを誇りに思う、と述べた。その上で、北朝鮮等地域の脅威に対処するには、より強固な防衛協力が必要であり、日本との対話は継続するが、韓国はGSOMIAからの脱退の決定を再検討すべきである、と促した。
結局、日韓の水面下の外交もあり、韓国は、GSOMIA破棄の「通告停止」を決定する。11月22日のことである。これにより、事実上、GSOMIAは継続することになった。米国の議会上院の決議文が要請したことが実現した。
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