男には、いつかは似合うようになりたい憧れの服があるのだ。筆者の場合、それはトレンチコートだ。映画「カサブランカ」のボギーみたいに、トレンチコートの襟を立てて気障なセリフの一つも言ってみたい。TVドラマ「傷だらけの天使」でショーケンが演じた木暮修のように、トレンチコートのベルトをギュッと結んで格好よく着こなしてみたい。
昔、作家の野坂昭如がイラストレーターの黒田征太郎と出ている三陽商会のコートの広告があった。あれも格好よかったなぁ。トレンチコートにボルサリーノハットを被ってサングラスに咥(くわ)え煙草。20歳そこそこだった筆者は、野坂昭如みたいにトレンチコートが似合うハードボイルドな男に憧れたものである。
トレンチコートのトレンチとは、塹壕(ざんごう)を意味する。元々、英国軍が着ていた軍用のコートが起源で、英国の老舗コートブランドのものが元祖と言われている。
日本にも、ずっと上質なトレンチコートを作り続けている工場がある。青森県の「サンヨーソーイング」だ。ここはあの野坂昭如のトレンチコートの広告の三陽商会が1969年(昭和44年)に設立して昨年50周年を迎えた、国内でも非常に珍しいコートの専門工場である。
親会社である三陽商会は、ここで長年培ってきたモノづくりの技術を世界にアピールすべく、工場そのものを「サンヨーソーイング」というブランドとして新たに立ち上げた。この秋冬シーズンは、海外でも人気が高いデザイナーの吉田十紀人(ときひと)がデザインしたサンヨーソーイングの名前を冠したコートが作られて、話題になっているのだ。
そこで今回は、サンヨーソーイングを訪ねて青森県の七戸町(しちのへまち)を旅して来ました。ようし、筆者も今年の冬はトレンチコートが似合う男になってみせるぞ。