メイドインニッポン漫遊録 「ひととき」より

2020年2月27日

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いであつし (いで・あつし)

コラムニスト

1961年、静岡県生まれ。コピーライター、「ポパイ」編集部を経て、コラムニストに。共著に『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)など。
 

 サンヨーソーイングは、日本一新幹線の駅に近い工場と言われている。七戸十和田駅から徒歩で約1分。晴れた日の東北の空と同じ色をした青い屋根の素朴な建物がすぐ見えてくる。

 工場の玄関にあるショールームには、トルソーを使ってお洒落にコーディネートしたトレンチコートが展示されている。

 コートは衣服の中でもパーツが多くて製造工程が複雑で、生地の寸法も大きく場所を使い、非常に手間のかかるアイテムである。他の衣服工場と違って縫製や組み立てに時間がかかり、多くの専門の職人の手も必要とする。またシーズン物なので、サンヨーソーイングのように1年を通して100パーセントコートだけを生産している工場は他に類を見ない。
 「年間3万6000着、コートを作っています。我々が作っているのは一点物の芸術品ではなく工芸品です。求められているのはたくさんの製品を同じクオリティーで作り続けることです。質の高いコート作りに欠かせないのは、まずCAD(キャド)を使って迷わず正確な型紙の作成・加工をする工業パターン技術、それから熟練の職人たちによる高度な縫製技術、そして特殊な仕上げ技術。この3つです」

 自信に満ちた顔でそう語ってくれたのは、サンヨーソーイングの社長の横井享(とおる)さん。

「コートは機械だけではなく人の目と手がなくては出来上がりません」と社長の横井享さん(中央)

 コート作りは工場のスタッフだけでなく、近隣に住む内職の職人さんたちにも支えられている。釦(ぼたん)付けや一部のパーツ作りは外注もしているのだ。青森で操業を始めて以来、なんと40年以上の付き合いがある人も少なくない。こうした独自のネットワークを築いているのも、サンヨーソーイングの強みだ。

 「工場を中心とするこの辺り一帯には、サンヨーソーイングの職人が多いんです。ゆくゆくは七戸がコートの町と呼ばれるようになりたいですね。目指しているのは、工場から職人まで村全体でファミリー経営をしているイタリアのラグジュアリーブランドのような会社です」

 地元の七戸に密着したモノづくりこそが、工場の名前を冠してブランドとして使えるクオリティーの高いコートを生み出しているのだ。

(写真右)ベルトの穴は、菊穴といって、布端がほつれないように糸でかがる 
(写真左上)各パーツの縫製やアイロン掛け、製品検査などパートごとに分れて作業する。一人ひとりが職人だ 
(写真左下・下中央)専用の釦と釦付け作業

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