工場を案内してくれたのは、工場長の和田秀一さんだ。サンヨーソーイングで作っているトレンチコートの話をしだしたら、薀蓄(うんちく)が止まりません。
「トレンチコートはコートで最も専用のパーツが多い衣服なんです。出来上がるまでに約400工程を要します。釦だけでも1着で20個使っています。使う箇所によって種類も大きさも違い、例えばフロントには天然の本水牛釦の中でも希少な半透明タイプを採用しています」
丁寧に釦を縫い付けている職人さんの作業を見学させてもらう。仕上げに糸を何周も巻いて釦を生地から少し浮かす。
「これは釦の掛け外しがし易くかつ丈夫に保(も)つように、釦と生地の間に程よいスペースを作る縫製方法で、その技術の高さは当社を代表するものの一つです」
面白いのは、コートを吊るした状態でアイロン掛けをする空中プレス仕上げ。広い場所がなければできないコートの専門工場ならではの作業だ。熟練の職人さんが馴れた手つきでアイロンを掛ける姿は、まるで鮟鱇(あんこう)の吊るし切りをしている料理人みたいである。和田さんに「面白い喩(たと)えですね(笑)」と言われてしまった。
他にも日本で唯一のここにしかない特注のラグラン袖専用のプレス機や、絶妙なテンションで糸を引っ張りながらミシンを掛ける引き縫いなど、さまざまな専門技術を駆使してサンヨーソーイングのトレンチコートは完成するのだ。
ショールームで出来上がったばかりのトレンチコートを試着させてもらった。うーむ……似合わない。コートじゃなくて、筆者の出来が悪いのね。トホホ。
(写真・阿部吉泰)
●株式会社サンヨーソーイング
<所在地>本社:青森県上北郡七戸町字荒熊内67-18
☎0176-62-2011
<URL>https://www.sanyocoat.jp/
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