寝袋品質で世界と勝負する滋賀ダウン
筆者が初めてダウンジャケットを知ったのは、中学生の頃に夢中で読んだ「メイドインUSAカタログ」だ。
70年代後半に発売された当時のアメリカの若者に流行っていたライフスタイルを紹介したカタログ雑誌で、アメリカでいまブームのアウトドアウェアとして紹介されていた。「こんな寝袋みたいな服がカッコイイの?」と思ったのを憶えている。
あれから40余年。いまではすっかりダウンジャケットは市民権を得て、ユニクロなどの安価なものから何十万円もする高価な欧米のアウトドアブランドのものまで、軽くて暖かな冬のお洒落着として定着している。
最近、お洒落な人たちから注目されているのがジャパンダウンだ。なかでも人気が高いのが、「ナンガ」というブランドのダウンジャケットである。元々は滋賀県でシュラフ(寝袋)を作るアウトドアメーカー。寝袋の製造で培った高い技術と品質の良さで、有名セレクトショップの別注も数多く手掛け、東京の目黒と吉祥寺に自社ブランドを揃えた直営ショップもある。
メイドインUSAカタログで初めて知ったダウンジャケットも、いまやメイドイン滋賀の時代なんですね。そこで今回はナンガを訪ねて、滋賀県の米原市を旅して参りました。
父から子へ、伊吹山の麓で作る高品質
ナンガの本社は、日本百名山の一つに数えられる伊吹山の麓にある。社屋の周辺は見渡すかぎりの田園風景。目の前には紅葉が間近の伊吹山がどぉんとそびえている。
創業は昭和16年(1941)。前身は先々代が設立した「横田縫製」という縫製会社。近江真綿の産地が近かったことから布団メーカーの縫製加工の下請けをしてきた。しかし加工を安価な海外の工場に移行する企業が増えてきて、2代目の横田晃さんは社員の雇用を守ろうと、布団の縫製加工の技術を活かしたアウトドアの寝袋メーカーに転身する。
平成7年(1995)、社名とブランド名を「ナンガ」に変更。「攻略が難しい山だが一歩一歩頂(いただき)を目指して登ろう」という思いで、登頂困難なヒマラヤ山脈の標高8125メートルのナンガ・パルバットから名付けた。