2024年11月22日(金)

中国 覇権への躓き

2020年2月3日

外交戦略を進める上で欠ける
対日関係というピース

 中国は、経済発展に必要な国際環境を構築するために、そもそも安定した近隣諸国との関係を望んでいる。12年に習が共産党総書記に就任し、はじめて主宰した外交政策に関する会議は、近隣諸国との関係安定を確認した「周辺外交工作座談会」であった。

 また、中国経済にとって日本経済は量、質において大きな存在といってよい。中国の輸出相手国として、日本は世界第4位であり、輸入相手国としても第3位である。また、日本の対中直接投資額は第3位、進出企業数の第1位は日本企業だ。

 さらに、日中両国政府が先導する第三国における日中民間経済協力のスキームの下で、日中の民間企業が協力したインフラ建設事業の展開がうたわれている。中国は援助大国・日本が培ってきた融資の経験を評価し、日中の政策系金融機関による協調融資の実績は少なくない。

 中国は日本との間でイノベーション分野や知的財産分野における交流と協力にも積極的である。高速経済成長の社会から、質を追求する成熟社会の構築という課題に直面している中国にとって、中国に先んじて成熟社会に到達した日本社会の知見は必要だ。

 対日関係の改善は、中国の国内政治の文脈においても重要な意義がある。現指導部が推進する「一帯一路」イニシアチブに、これまで積極的な支持の姿勢を示してこなかった近隣国は日本だけだ。「一帯一路」を建設し、人類運命共同体を構築するという外交戦略を推進する上で、欠けていたパズルのピースが対日関係である。パズルが完成することの政治的意味は大きい。

 これらを踏まえ、中国の現指導部は、習主席の訪日に際して1972年の日中共同声明、日中平和友好条約(78年)、平和と発展のための友好協力パートナーシップ確立を打ち出した日中共同宣言(98年)、戦略的互恵関係の包括的推進をうたった日中共同声明(2008年)の4つの政治文書に続く「第5の政治文書」を欲している、と目されている。

 しかし、たとえ中国が「第5の政治文書」を欲しているとしても、日本にとって、その有無は重要ではない。日本が留意すべきは、中国の一連の対外行動には、米国に対する警戒と競争が念頭にあるということだ。

 日本は、日米同盟の強化をはじめとして、安全保障分野での取り組みを近年積極化している。集団的自衛権に関する憲法解釈の変更、安全保障関連法制を制定しての米軍と自衛隊との防衛協力の余地の拡大、日米防衛協力を円滑に運用するために日米防衛協力のための指針を改定する等、能動的な取り組みをしてきた。


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