中国 覇権への躓き

2019年12月24日

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渡邉真理子 (わたなべ・まりこ)

学習院大学経済学部経営学科教授

専門は応用ミクロ経済学。東京大学経済学部卒業。アジア経済研究所、香港大学商学院、北京大学光華管理学院訪問学者等を経て、2013年9月より現職

 米中貿易摩擦に終わりは見えない。産業補助金を通じた競争歪曲(わいきょく)的な政策、安全保障のための輸出管理、データと国家の監視など、摩擦が起きるさまざまな分野の背景にあるのは、米中の技術覇権争いである。この中心にあるのが、半導体産業だ。

 通信と半導体の技術進歩は生活と経済を大きく変化させてきた。例えば、テキストメッセージでのやりとり、画像・動画の閲覧、そしてモバイルペイメントの普及によるシェアリングサービスの広がりなど、あらゆるシーンの利便性を上げている。半導体の能力を向上できる者が、イノベーションの方向性を支配できる。

 米中貿易摩擦における米国の本音は、中国がイノベーションの主導権を握るのを抑止する意図があるのだろう。

米国通信委員会の新たな調達規制

 現在、米国はファーウェイを筆頭に中国企業への制裁を強めている。米商務省は米国輸出管理規則(EAR)において、ファーウェイを米国の安全保障・外交政策上の利益に反する組織としてエンティティーリストに加えた。その影響で、米グーグルはファーウェイとの取引ができなくなり、2019年9月にドイツで発売したスマホ「Mate30」は、グーグルモバイルサービスがインストールできず「Gメール」や地図アプリ「グーグルマップ」が使えない。

 また報道によれば、米国通信委員会は同年11月、国内の農村部の通信網敷設に支援基金を利用する場合、危険を及ぼしうる企業からの製品の調達を禁じる規制案を発表した。これはファーウェイなどの製品を念頭に置いている。

 現在の一連の米中貿易摩擦は、1977年に始まり97年に沈静化した日米半導体摩擦(大矢根聡『日米韓半導体摩擦』)の米中版ともいえる。①日本が米国に対して自主的に輸出規制と輸入拡大を行い、それを実行するため、各企業に輸出数量を割り当てた。これが韓国、台湾などと米国間の摩擦の対応に影響を与えた。しかし②数量割り当ては功を奏さず日米韓台の摩擦が激化した。③最終的に日本がWTOの紛争メカニズムに提訴すると、一連の対立は鎮静化した(前掲書)。

 しかし、沈静化はしたが、数量割り当てが続いたことにより、日本の半導体業界は開発力を削がれ、その後の日本企業のイノベーションの足かせとなり、「失われた30年」につながった。

アリババは9月、オープンソース技術で開発したAIチップを発表した
(VCG/GETTYIMAGES)

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