いま中国は、当時の日本と同様に、イノベーション力の抑止を目的としたかのような米国の制裁を受けている。しかし、現在の技術のありかたは日米半導体摩擦のころと大きく異なる。70年代~90年代、技術はほぼ特定の企業の所有物であった。それゆえ日本政府が各企業への数量割り当てを行い、政府間の摩擦に対応するという発想が生まれたのだろう。しかし現在、ソフトウェアの役割が一層大きくなるにつれ、企業や国家の枠を超えたグローバルコミュニティーが技術を共有するようになっている。
それを理解するにはファーウェイの歴史を振り返るとわかりやすい。3Gの時代に通信設備のデジタル化が進み、ソフトウェア開発能力が製品の質とコストを左右するようになった。ファーウェイは、顧客の要望にあわせてソフトウェアを修正するために、残業もいとわない「奮闘者」の組織を作り、多くの若い中国人エンジニアを開発に投入して大きく成長していった(今道幸夫『ファーウェイの技術と経営』)。
4Gの時代には、同社はデジタル技術の大衆化のためモバイル端末の開発・生産に乗り出す。そしてその半導体の設計をするハイシリコンを買収し、Kirinシリーズの生産を始めた。この半導体設計は、英ARMの提供するアーキテクチャによって可能となった。ファーウェイは技術のモジュール化に助けられた。
中国企業が投資を増やす
オープンソース技術
さらに、今回の米中摩擦を受け、RISC−V(リスクファイブ)と呼ばれるオープンソース技術に対し、ファーウェイのみならず多くの中国企業が関連する投資を増やしている(テカナリエの清水洋治代表取締役CEO)。RISC−Vは、2010年にカリフォルニア州立大学バークレー校が設計と開発をスタートさせた、スマホなどハードウェアを動かすための半導体アーキテクチャである。この領域におけるARMの独占を回避する意図があり、米国防総省が当初支援していた。
RISC−Vはいかなる用途にも使え、チップおよびソフトウェアの設計・開発・利用が開放されているオープンソースとして登録されている。この米国政府の後押しでスタートした技術が、結果的にファーウェイやアリババなどの中国企業の助け舟となった。
オープンソースは、利用者の目的を問わずソースコードを使用、調査、再利用、修正、拡張、再配布が可能なソフトウェアの総称であり、RISC−VのほかLINUXが有名である。コミュニティー全体の知恵で品質を管理するうえ、オープンであるゆえ詐欺は難しい。ソフトウェアではないが、オンラインの百科事典・ウィキペディアも同じしくみで品質管理されてきた。
19年現在、RISC−Vを用いた商品開発が急激に進んでおり、あと数年でスマホのOSをも動かすことができるとも言われている。