2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年2月24日

 1月28日、英国のジョンソン政権は、Huaweiに5Gネットワーク構築への参加を認める、ただし、その中核の敏感な部分への参加は認めず周辺に限定する、参加の規模は通信会社一社につき35%を限度とする、軍事施設および核施設などが所在の敏感な地域での参加は認めない、との決定を行った。通信会社4社のうち、2社はHuaweiのシェアが既に35%を超えており、今後3年のうちにこれを35%以下にすることが求められる。 

MarianVejcik/iStock / Getty Images Plus

 この決定を、ジョンソン首相は直ちにトランプ大統領に電話で説明した。が、2月7日付 の英フィナンシャル・タイムス紙が報じるところによれば、その時、トランプはジョンソンに「カンカンになり(apoplectic fury)」怒り狂った由で、その激しさに英国の当局者はあっけにとられたらしい。この問題は、ジョンソンが対米関係で最初に遭遇した難問という訳である。 

 1月30日付の英フィナンシャル・タイムズ紙では、同紙コラムニストのフィリップ・スティーブンスが、(1)EU を離脱した英国は米国との「特別な関係」に否応なしに傾斜する、(2)しかし、米国との関係は一筋縄では行かない、特に相手が気まぐれのトランプとあってはそうである、(3)米国との関係に傾斜するとしても、英国では英米関係は政治とメディアの厳しい吟味に今後晒されることになり、対米追従は許されない、(4)その観点では、ジョンソンがHuaweiの問題でトランプの意に反する決定をしたこと、その他イラン、中東和平、デジタル課税など米国と立場を異にする問題の存在は対米追従の批判を封ずる材料になるが、一方で米国との貿易協定を必要とする難しい事情にある、と論じている。その上で、スティーブンスは、「Global Britain」というが、英国がEUの加盟国の地位を捨てた新たな立場で、しかも恐らく米国との「特別な関係」に過度に依存しない形で、その役割を見出していくことの重要性を指摘しているように読める。 

 この議論の筋道は妥当であると思われる。勿論、英国は米国を必要とする。しかし、ジョンソンがどう行動するかはっきりしないが、相手がトランプとあっては、「特別な関係」は変質せざるを得まい。かつて英国は米国の良き相談相手であり相棒であり、共鳴し合う関係にあり、そのことが国際的に積極的な意義を持っていたのだと思うが、その種の積極的な意義は損なわれるであろう。 

 EUを出た今、Brexitが間違った選択でなかったことを証明するためにも、英国は米国以外にも多くの友邦を是が非でも必要としている。日本をはじめ広く他の諸国・地域との関係を開拓し強化したい意向のようである。日本としても、英国の様々な潜在力に期待し、また我が国の中国に係わる関心を共有せしめる目的で、政治・経済関係の一段の強化を図ることが、日本にとっても利益になると思われる。 

 日本と英国は、民主主義、人権、法の支配などの価値を共有するのみならず、米国との同盟国として、大国の米国とどう付き合うかについても共通点が多い。イランとの関係についても、日英両国は、米国ほど強硬ではない。一方、日本も英国も、米国との協力を様々な分野で必要としており、米国を頼らざるを得ない部分がある。また、日米英3か国は、海洋国家として、豪州やインドなどを巻き込み、インド太平洋地域をはじめ世界の海で協力することができる。

 Brexitは英国にとって試練でもあるがチャンスでもある。日本にとっては、貿易はじめ新たな経済協力ができる機会が生まれ、さらなる安全保障協力も可能となる。

 

  
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