2022年12月2日(金)

使えない上司・使えない部下

2020年2月27日

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「人から自分にしてもらった時にうれしいことを従業員にすればいい」

 私は1997年に退職し、社会保険労務士として独立、開業をしました。10数年前からは、従業員を大切にし続ける人本経営の実践サポートこそ、私の使命として邁進しています。人本経営を学ぶことができる大学院修士課程に通い、全国の企業の視察や社長、役員、担当者にヒアリングを繰り返してきました。人本経営ではたとえば、役員や管理職が部下の違いや多様性を認めたうえで育成することを大切にしています。社員どうしも互いの違いを認め、尊重し合うことが大事なのです。

 部下を「使えない」と言っている上司がいるならば、その方は相手の短所だけを見ているのではないでしょうか。しかも、それは主観によるものが大きい場合があるようにも思います。明確で、客観的な根拠に乏しいのではないでしょうか。ほとんどの人には、何らかの長所があります。それを見つけるのが、上司の仕事のはずです。人本経営では、役員や管理職は支援型リーダーであることが必要と考えられています。部下の個性や持ち味、特徴やよいところ、長所をいかに引き出すことを重視しています。

 コンサルティングの場で役員や管理職にお聞きするのが、「部下の長所を言えますか?」ということです。返事に困る人もいますが、難しく考える必要はありません。長所は、上司などが「これをするように」と言わなくとも、黙々と取り組んでいることなのです。たとえば、部内で最も早く出社しているならば、それが長所だと私は思います。長所に気づくことが、役員や管理職に求められているのです。そして、本人が長所を繰り返しできるように環境を整えていけばよいのです。長所が活かせる仕事をたくさんするようになると、短所が周囲には見えなくなります。本人のやる気が増して、仕事への姿勢がよくなり、職場の雰囲気も変わるでしょう。部署の業績も次第によくなるはずです。

 私が人本経営の視察で知ったホテルでは、金魚の世話に熱心な女性の社員がいたそうです。それが長所だと見抜いた経営者は、「すごいね」と承認しながら見守っていました。その社員はさらに金魚の飼育に大変に熱心になり、お客さんたちからも話題になるようになったのです。いつしか、女性は人気者となり、ファンであるお客様を生み出し、業績拡大にも貢献をしているようです。

 経営者の中には、「従業員の長所を見つけ、それが生きるようにするのは難しい」と話す方がいます。一方で、私が知る人本経営に取り組む会社の経営者は、「人から自分にしてもらった時にうれしいことを従業員にすればいい。難しく考える必要はない」と話します。私は、この言葉は示唆に富むものと思っています。

 知人に、このような反論をする方もいます。「そのようにして従業員を甘やかしていると、業績拡大はできない。本人たちが不得手とすることでも、どんとんとさせて鍛えていかないと成長はしないし、会社も発展しない」。私は、この考え方を否定はしません。これで会社の業績がよくなり、従業員が幸福になるならば1つの考えではある、と思います。

 しかし、今の時代や今後は、こういう路線では従業員の心を満足させ、モチベーションアップを図り、会社の業績を拡大するのは難しいように思います。労働力人口減少の流れはもはや止まらず、人手不足が一段と深刻化していくでしょう。この傾向は、ますます拍車がかかるはずです。

 右肩上がりの、つまり、イケイケドンドンの時代ははるか前に終わっているのです。それを踏まえ、考え方を変えていくべき時期に入っているはずです。多様な従業員と関係の質をよくしていくことが組織を長期にわたり、安定的に持続させ、成長させていく鍵になってきていると思います。その意味で、「使える、使えない」の議論は時代遅れなのではないでしょうか。

  
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