ベストセラーで読むアメリカ

2020年3月2日

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■今回の一冊■
『Profiles in Corruption』
筆者Peter Schweizer
出版Harper

『Profiles in Corruption』

 トランプ大統領の再選に向け、援護射撃の役割を担うノンフィクションの売れ行きが好調だ。大統領選でトランプの対抗馬になりそうなアメリカ民主党の政治家たちの欺瞞や腐敗ぶりを徹底した調査であぶりだす本だ。バーニー・サンダース上院議員やジョー・バイデン前副大統領らをとりあげ、それぞれ1章ずつを割り当てて過去の怪しい言動を告発していく。

 民主党支持が多いアメリカの有力メディアはトランプ大統領のことばかり批判しているが、改革を叫ぶ民主党の政治家のほうがもっと信用できない、というのが本書の主張だ。Abuse of Power by America’s Progressive Elite(アメリカの進歩派エリートによる権力乱用)というサブタイトルが示すように、民主党を代表する政治家たちが公職について得た権力をつかって、自分の家族や友人、後援者のために数々の便宜をはかってきた過去を告発する。だかこそ、トランプ大統領にだけメディアからの批判が集中するのはおかしい、という論法だ。

 正直なところ、重箱の隅をつつくようなレベルの話も散見される。しかし、情報公開法なども活用して膨大な開示資料を集め、税務申告書などを詳細に分析し根拠を示して批判を展開している。説得力ある書きぶりになっている。だからこそ、本書はニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリスト(単行本ノンフィクション部門)に登場2週目だった2月16日付で1位につけた。アメリカの一般読者の多くは本書を読んで、「やはりトランプ大統領にもう4年頑張ってほしい」との思いを強くしているに違いない。3月8日付のベストセラーランキングでも7位につけている。

 トランプ大統領を援護するために民主党の政治家を攻撃しているとの批判をかわすために、本書の序章部分では前もって次のような言い訳も書いている。

Make no mistake, Trump, as one of the most powerful people in the world, should be scrutinized by journalists¬―just not at the expense of failing to investigate other politicians, especially those aspiring to the same job and level of power.

 「誤解しないでほしい。世界でもっとも大きな権力を持つ人間の一人として、トランプはジャーナリストたちによって厳しく監視されるべきだ。だからといって、他の政治家たちを調べることがおろそかになってはいけない。特に、大統領の座とその権力を獲得したいと熱望している政治家たちについて、もっと調べるべきだ」

 メディアによる取材がトランプ大統領に集中するあまり、他の政治家の腐敗を追及する報道がおろそかになっている、と筆者は言いたいわけだ。まさに、トランプに集まる批判の目をそらし、対抗馬となる政治家たちの評判を落とすための援護射撃を狙っている。ベストセラー本をつかった高度な情報戦といえる。

 実は、本書の筆者Peter Schweizerは2015年にも、Clinton Cashというノンフィクションを出版しベストセラーにした。元アメリカ大統領のビル・クリントンとヒラリー・クリントンの夫妻が海外の政府・企業から、いかに多くの献金をもらい私腹を肥やしているかを、公開資料を分析し追及した本だ。前回のアメリカ大統領選の前の年であり、その徹底した調査ぶりが高く評価された。ヒラリー・クリントンが特権階級で私腹を肥やしているとのイメージを植え付けるのに成功した。ヒラリーが前回の大統領選でトランプに敗れたのも、こうしたベストセラー本によるネガティブ・キャンペーンが背景にあった。

 本書を読む際には、筆者の正体を知っておく必要がある。本書の筆者であるPeter SchweizerはGovernment Accountability Instituteという非営利のシンクタンクの所長だ。このシンクタンクは実は、トランプ大統領の最側近だったスティーブ・バノンが設立に関与し、前回の大統領選で世論操縦のために利用した組織だ。共和党を支持する大富豪が運営資金を寄付し、その調査活動をサポートしている調査機関なのだ。豊富な資金を生かして弁護士やデータ・サイエンティスト、プロの調査員などを雇って、政敵に不利な情報を集めるシンクタンクだ。2017年10月5日の本コラム『トランプの元側近・バノンの恐るべき正体』でも、この調査機関のことを取り上げている。詳しくはそちらを参照してほしい。

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