2022年7月7日(木)

ベストセラーで読むアメリカ

2020年1月23日

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■今回の一冊■
『Catch and Kill』
筆者 Ronan Farrow
出版 Little, Brown

1月21日、ニューヨークの裁判所に出廷するハーベイ・ワインスタイン氏(AP/AFLO)

 ハリウッド映画界の大物プロデューサーによる性的暴行疑惑を追ったジャーナリストが、その困難だった取材プロセスをまとめたノンフィクションだ。被害にあったと噂される女性たちを見つけ出し証言を引き出そうとするものの、スキャンダルを暴かれることを恐れる大物プロデューサーは、イスラエルの諜報機関の元工作員やアメリカの検察OB、大物弁護士らプロ集団を雇って取材を妨害する。

 記者たちや被害女性たちを、プロの調査員が尾行して監視するとともに、身辺を探って弱みが見つかれば、それを材料に口封じ工作をするのだ。イスラエル空軍出身の美人スパイが別人になりすまし、監視の対象者に直接会って情報を引き出す。悪いことをした張本人が自己保身のために札束でその道のプロを雇い、真実が暴露されるのを止めようとする。元特殊部隊のプロたちを雇い日本から逃亡したカルロス・ゴーンのような例は、実は世界では珍しくないことが分かる。

 本書のタイトルの『Catch and Kill』とは、まずい話をキャッチして、ネタを持っている人に口封じの金を払って黙らせ、スキャンダルを握りつぶすことを意味する。政治家など有力者の息のかかったタブロイド紙が、取材の形で内部告発者や情報提供者に接触し、他のメディアには話さないことを約束させて金を払い、そのまま話を闇に葬り去るやり口だ。

 本書のジャーナリストが疑惑を追及した大物プロデューサーとは、ハーベイ・ワインスタインで、本書のもととなった報道により、2017年に映画界から追放された。この大物プロデューサーのために、経営トップ自らスキャンダル報道のもみ消しに協力したのが、タブロイド紙「ナショナル・エンクワイアラー」を発刊するアメリカン・メディア社だということも本書は告発する。トランプ大統領のために昔の不倫相手に口止め料を払っていたとされる会社だ。

 本書が読みごたえがあるのは、ハリウッドの大物による性的暴行を明るみにするだけで終わらないからだ。業界の大物といった特権階級が、お金の力でマスコミ、元諜報機関の工作員、検察OB、大物弁護士らを味方にして、自己を正当化する情報戦をてがける事実を暴露し衝撃だ。まさに私的な諜報作戦であり、金持ちによるスパイ大作戦だ。

 しかも、話はそれだけで終わらない。本書を書いたジャーナリストは取材していた当時は、アメリカの大手テレビ局のひとつNBCの記者としてスキャンダルを追っていた。しかし、NBCの経営幹部にもワインスタインの手が回り、取材の打ち切りを命じられた経緯も詳しく伝える。異例なことに、テレビでの放送をあきらめ、雑誌に原稿を売り込んで取材結果を公表したのだ。

 記事が出て反響を呼んだところでようやく、NBCもワインスタインについて報じ始めた。さらに、NBC社内でのセクシャルハラスメントのもみ消し疑惑なども浮上する。NBC社内で特ダネを握りつぶされた経緯なども詳細に伝え、ジャーナリズムとは程遠い大手テレビ局のあきれる話の連続に驚かされる。

 特権階級にある大物たちを巡る腐敗をも暴く本が売れないはずはない。本書はニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリスト(単行本ノンフィクション部門)で2019年11月3日付に2位で初登場した。今年に入り1月26日付ランキングでも6位に入った。

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