■今回の一冊■
A Higher Loyalty
筆者 James Comey
出版社 Flatiron
なにかと話題を振りまいたFBIのコミー前長官が書いた回顧録だ。トランプ大統領が2017年5月に突然、任期途中で解任したFBI長官だ。2016年の大統領選挙の時には、民主党のヒラリー・クリントン候補を邪魔するかのように、ヒラリーに対する国家機密漏洩の疑惑をめぐるFBIによる捜査を対外発表したことで有名な、あの前FBI長官だ。
トランプ大統領を痛烈に批判する内容との前評判が高く当然ながらベストセラーとなっている。ニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリストでは、5月6日付でいきなりトップで初登場した。そのまま3週連続で1位を獲得し、5月27日付のリストでも3位の好位置につけた。
トランプがなかなか出てこない
筆者のトランプ大統領への評価はずばり次の一節に要約される。宣伝のために出版前にアメリカの一部メディアに掲載された本書の抜粋にも入っていた一節だ。FBI長官としてトランプ大統領に仕えた経験をもとに、手厳しい評価を下している。
This president is unethical, and untethered to truth and institutional values. His leadership is transactional, ego driven, and about personal loyalty.
「この大統領は倫理観に欠けるうえ、真実や公共の利益といったものにこだわらない。彼のリーダーシップとは、目先の利益と自分のプライドを優先し、組織ではなく自分個人に忠誠を誓う部下をかわいがるというものだ」
しかし、である。本書を勢い込んで読み始めたはいいものの、なかなかトランプ大統領が出てこない。全体の7割ほどを過ぎてから、ようやくトランプ大統領が出てくる。それもそのはずで、本書はコミー前長官が自身の半生を振り返るのを主な内容とする。高校生時代に、自宅に押し入ってきた拳銃強盗に囚われの身となった経験から始まり、ニューヨーク・マンハッタンで検察官として活躍しマフィア撲滅に奔走した思い出話などが続く。
マンハッタンで検察官を務めていた時の大先輩がルディー・ジュリアーニだ。1994年から2001年までニューヨーク市長だった政治家で、今はトランプ大統領の取り巻きのひとりだ。本書によると、ジュリアーニは連邦検事だった当時、やり手だったものの、政治的な野心も強烈でテレビ向けの記者会見などで目立つことを優先していたという。職場で先輩から次のような忠告を受けたという。