ベストセラーで読むアメリカ

2018年5月24日

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明るい未来に希望を託す

 ようやく全体の7割ほどを読み進めると、トランプ大統領とのやり取りなどのエピソードが出てくる。トランプ大統領から誘われてホワイトハウスで、ふたりで夕食をとった時のやりとりや、大統領の執務室で二人りきりで話した時のトランプ大統領の様子などを記している。しかし、そこに決定的な瞬間の暴露を期待すると裏切られる。尋ねもしていないのに、ロシアのホテルで売春婦2人と過ごしたとの疑惑を必死に否定したり、女性からセクハラで訴えられている件を語ったりと、場違いで見識のない大統領の話しぶりを活写はする。

 しかし、それ以上のものではない。捜査機関であるFBIの独立性に配慮しなければいけない立場をわきまえずに、ロシア疑惑の捜査への介入ととられかねない発言をした点などは、もはや想定の範囲内のエピソードではある。もちろん、実際にじかにトランプ大統領と二人っきりで話した張本人による回想なので、他愛のない会話や大統領の身振りや表情などそのディテールを読む面白さはある。とはいえ、正直なところ暴露本としての迫力には欠ける。

 筆者はトランプ大統領にあきれつつも、最後はアメリカ人らしく明るい未来に希望を託す。

 But I choose to be optimistic. Yes, the current president will do significant damage in the short term. Important norms and traditions will be damaged by the flames. But forest fires, as painful as they can be, bring growth. They spur growth that was impossible before the fire, when old trees crowded out new plants on the forest floor. In the midst of this fire, I already see new life—young people engaged as never before, and the media, the courts, academics, nonprofits, and all other parts of civil society finding reason to bloom.

 「しかし、わたしは楽観するほうを選ぶ。たしかに、いまの大統領は短期的には大きなダメージをもたらすだろう。大切な規範や伝統の数々が炎によって壊されるだろう。しかし、森林火災は、どんなにひどいものであっても、新たな成長をもたらす。古い木々が森の地面から新しい植物を締め出していた時には不可能だった新たな成長が、森林火災によって促される。今まさに、この火災のさなかで、すでに新しい息吹がみられる。かつてないほど若者たちが社会的な活動に取り組み、裁判所や学会、NPO、市民社会を支える他のあらゆる団体が活性化するきっかけを見つけている」

 本書は総じてコミー前FBI長官が自己の正当性を訴える記述が多い。アメリカの一般読者は前FBI長官についてそれほど関心はないと思われる。本書を買った人の多くは前半部分は読み飛ばし、トランプ大統領とのやり取りを回想する部分だけを拾い読みし、「やっぱりね」と予想通りの大統領の愚かぶりを軽く笑っておしまいという感じだろう。ド派手なテレビCMにつられて映画館に行ったものの、CMでみた以上のシーンがない残念なハリウッド映画と出会った感じだろうか。

 本コラムの筆者としても、振り上げたこぶしを下す先がない肩透かし感は否めない。せっかくなので、最後に脱線するのを許してほしい。ハリウッド映画といえば、日本でも最近公開された「ホース・ソルジャー」という作品をご存じだろうか。実は原作となったノンフィクションを、2009年7月の本コラムで取り上げている(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/461)。まだ見ていないので映画の出来は分からないが、原作の本は本当に刺激的で面白かった。いつか映画化されるだろうとは思っていた作品だ。しかし、年数がかかるものなのですね。映画化には。

  
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