2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年5月25日

 4月末にタイ国防相が陸・海・空軍のトップを伴って訪中したことについて、バンコクポスト5月3日付けで、同紙のWassana Nanuam軍事問題担当記者が、これはタイが米中間でバランスを保つためにも、タイ=カンボジア国境問題について中国側の理解を得るためにも役立つ、一石二鳥の作戦だ、と評価しています。

 すなわち、この15年間で初めて、タイ国防相と陸海空司令官がチームとして中国を訪れたが、これについて、あるタイ国防省高官は、「タイが中国を重視していることを中国側に伝えたかった。中国は近しい親類、米国は近しい友人であり、どちらかを選ぶということはできない。また、勢力均衡のためにもタイは全ての超大国と緊密な関係を維持する。ただ、現状では、遠くの友人より近い親類と緊密な関係を持たざるを得ない」と言っている。

 従来、タイ軍は米国と関係が深かったにも関わらず、タイ国防相が、「このようなチームが訪問するのは中国だけだ」と言ったことは、中国を十分満足させただろう。

 他方、タイ側には、北京とプノンペンの深い関係を知っているだけに、カンボジア国境問題について中国側の理解を得たいという思惑があった。それに、インラック首相は、武器の輸入先を多様化しようとしており、現にヘリコプターは中国から輸入することを考えているようだ。ただ、軍は英、仏製の方を好んでいる。また、中国の潜水艦にも興味を示しているが、軍はドイツの技術の方を好んでおり、さらに、将来の維持コストなどを考えて慎重だ。

 むしろ、今回の訪問の一つのメリットは、国防相と軍指導者が旅行の間、寝食を共にすることで親密になり、タイ政府と軍の間の意思疎通が良くなったことだろう、と言っています。

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 これはいかにもタイらしい外交です。一見インラック=タクシン政権が米国離れして中国にすり寄っているようですが、それはあまり深刻に捉えなくて良いのではないかと思われます。

 タイの外交は、一言で言えば、人の気をそらさない「微笑みの外交」であると同時に、決して負担になるほど深く捲き込まれない、距離を置く外交です。それは伝統に深く根ざした国民性から来るものでしょう。


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