2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年4月10日

 Foreign Affairs 3‐4月号でHenry A. Kissinger元米国務長官が、米中は両国の競争を普通の大国間の競争と見なして、相手に特別の警戒心を持たないようにすべきだ、双方に分別と調整能力がある限り、封じ込めや対決という危機的状況に陥ることは避けられる、と論じています。

 すなわち、米国は、中国が(1)アジアから米国の影響力を排除しようしている、(2)軍事力ではまだ米国に適わないが、サイバー空間や宇宙開発の分野では米国の優位を崩すような高度な手段を開発している、(3)島嶼列島線の中で優位を保とうとしており、いずれ中国中心のアジア圏を西太平洋に作るだろう、と見て強い警戒感を持っている。

 逆に中国は、米国が(1)傷ついた超大国であり、いかなる挑戦者の台頭も容認し難く、(2)軍事力と同盟の約束で中国を包囲しようとしている、(3)その目的は中国の無力化だ、と見ている。

 そして米中双方が、自国に対する敵視は、相手の伝統と文化から不可避的に出てくるものだと考えている。

 こうした状況を踏まえて言いたいのは、米国は、挑戦されれば、安全確保のためにあらゆることをすべきだが、政策上の選択として対中対決の道を選ぶべきではないということだ。

なぜなら、米中が本格的に戦えば、長期持久戦となり、双方にとって破滅的な消耗戦にならざるを得ないからだ。経済規模が大きく、相互依存関係が進んだ中国に冷戦時代の封じ込めは使えない。

 それに、中国の方も、アジアの多くの国が、安全保障の守護者として米国のアジアへの関与継続を願っている中で、ソ連に対峙したように米国に対峙する気はないようだ。また、中国の軍事力増大も、決して例外的現象ではない。世界第2の経済大国がその経済力を軍事力に転化するのは特に異常なことではない。問題は、軍事力増大が無制限ではないか、それは何を目指しているか、という点だ。

 さらに、過去の中華帝国の発展は、軍事的征服よりも文化的浸透力によるところが大きく、被征服者たちが文化的に進んだ中国の文化に同化することによって、帝国は拡大した。その上、今は中国の北にはロシア、東には日・韓、南にはベトナム・インドがあり、中国が高圧的態度を取れば、逆にこれらの国々を結束させることになろう。

 米中双方が、平和的競争が行われる範囲を努力して定め、それをうまく運用すれば軍事的対決を避けられる。両国が共に太平洋共同体のメンバーとなって共通の目標を生み出すような仕組みができることを期待する、と言っています。

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 対中宥和論者と言われるキッシンジャーの米中関係についてのエッセンスとも言える論評ですが、米中双方が対決への道をとらず、大国同士として平和的競争のための理性的仕組みを考えるべきだ、とするその主張には誰も特に異論はないでしょう。ただ、軍備増強を背景に、国際規範を無視ないし独善的に解釈する中国にいかに対応すればよいのかについては、キッシンジャーにも妙案はないようです。


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