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2020年4月15日

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李 智雄 (り・ちうん)

三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト

1976 年韓国生まれ。東京大学経済学部卒業、ボストン大学大学院修士課程修了。経済学博士。韓国陸軍士官学校陸軍中尉・専任講師、東京大学客員准教授、国際大学講師、ゴールドマンサックス東京・ソウルを経て、2014年から現職。著書に『故事成語で読み解く中国経済』(日経BP 社)。

中国を選ばざるを得ない企業

 これを受けて、中国の製造業の空洞化は進み、弱体化していく、そう結論づけていいのだろうか。筆者は、そうではないと考えている。

 中国から生産拠点を移動している企業の多くは、中国の引き上がるコスト(賃金や環境コスト、関税など)に耐えきれなくなったため、よりコストが低いASEAN諸国を選ばざるを得なくなった企業である。

 一方で、筆者のヒアリングによれば、自動車関連や情報通信関連、医療機器関連企業は、引き上がるコスト以上に、資本装備比率を引き上げていることに加えて中国の労働者の質も上がっていることから、一人当たり生産性が上がっているため、中国での生産をより強化しているという企業も少なからずある。

 海外の生産拠点を決定するにあたって、今回日本政府が決めている「回帰等の補助」「生産設備の多元化を支援する」という項目は、検討される要素の一つに過ぎない。税率や事件費などのランニングコストに加えて、インフラ設備、そして関連メーカーなどの産業集積の程度、政府の産業政策も重要である。

 それらが全てある程度整っていないと、一企業の経済活動は維持することができない。それは、より複雑なサプライチェーンを必要とする、高付加価値化の進んだ産業であるほどそうであるようだ。

 つまり、今回の日本政府の政策に伴い、一部の企業が国内回帰や、中国以外の国での生産設備の多元化を行う可能性は十分にあるものの、それは、その企業の生産だけで比較的成り立ってしまう、あるいは高付加価値化された産業集積地を必要としない産業の企業である可能性が高いということだ。

 さらにいえば、前述の「海外事業活動基本調査」にもあるように、海外現地法人の投資決定のポイントのトップは「現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる」であり2017年度は68.6%と、2位の「進出先近隣三国で製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」の25.9%とは大きくかけ離れている(過去10年は同様の乖離)。所得上昇が着実に進んでおり、それに伴ったさらなる高付加価値の需要を見込む企業は、中国を選ばざるを得ない。

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