現在の一票の格差是正運動は、衆参ともに平等な一票の価値の実現を希求している。しかし、参議院の現状に関しては、衆議院と同じ意思決定が行われると「カーボンコピー」と揶揄され、異なる意思決定を行うと「ねじれ国会」と批判され、フランス革命の理論的指導者の一人アベ・シェイエスが「第二院は何の役に立つのか、もしそれが第一院に一致するならば、無用であり、もしそれに反対するならば、有害である」と喝破したような「第二院有害論」が主張されるに至っている。
衆議院と異なる代表原理の採用を
これは、衆参で同一の代表原理を採用しているからではなかろうか。まさに、19世紀のイギリスの政治思想家のウォルター・バジョットが言うように、「理想的な下院が存在する場合には、上院は不必要であり、また、それゆえに有害でもある。しかし、現実の下院を見ると、修正機能を持ち、また、政治に専念する第二院を並置しておくことは、必要不可欠とはいえないにしても、極めて有益である」わけなので、参議院にその存在価値があるとすれば「補充・抑制機能」にこそあり、存在意義を示すためには衆議院と異なる代表原理を採用することが一番の近道であろう。
アメリカの代表制度
上院と下院の役割分担
異なる代表原理からなる二院の組み合わせに関しては、歴史も統治機構も大きく異なるので一概に比較はできないものの、アメリカの代表制度は参考になるものと思われる。
すなわち、アメリカの議会は日本と同様二院制となっているが、下院は有権者数に比例して作られた小選挙区から選出された議員から構成される国民の代表であるのに対して、上院は人口の多寡を問わず各州から2名ずつ選出される地域の代表と考えられている。当然、下院では一票の価値の厳格な平等が要請されるのに対し、上院では一票の格差は大きくなるものの是認されている。これは、上院は外交・軍事について、下院は予算や社会保障制度に関する意思決定が慣習的に重んじられるというように役割に違いがあるからであろう。
そこで、例えば参議院改革の一環として、一票の価値の平等原則から離れて、若者の一票を高齢者の一票の何倍かの価値に換算できる代表原理を参議院に割り当て、参議院に世代間の公平性の観点から政策をチェックさせる権能も付加してはどうだろうか。
もちろん、現在の日本にあっては一票の価値の原則を損なう制度改正には反対も大きいだろうが、先にも述べた通り、現状のまま放置すれば、シルバーに染まった「民意」が若者を蹂躙する日が遠くない将来必ずやってくる。どの程度あるかはなはだ疑わしい高齢世代の利他心に期待するよりも、超高齢社会にあっても、制度的に世代間の勢力均衡を担保しておいた方が安心だ。
少子化の下での「ドメイン投票制度」
こうした問題意識のもと、1986年にアメリカの政治学者ピーター・ドメイン教授が提唱した未成年の子を持つ親に子の投票権を代理行使させるドメイン投票制度や、最近竹内幹一橋大学准教授が提唱した平均余命に応じて投票数を割り当てる平均余命投票制度が検討に値するものとして注目されている。