2024年12月22日(日)

シルバー民主主義に泣く若者

2012年5月16日

 民主主義のもとでは、政党は、政権与党の座を獲得し、それを維持することを主たる目的として存在し、活動している。したがって、各政党はより多くの有権者や集票力を持つ利害団体に有利となるような政策を提案するインセンティブを持つ。

 これまで利害団体の多くは、農業団体、建設業界、医師会、経営者団体、労働組合等のように職業や職業上の地位に基づく団体だったが、高齢世代の数が相対的に増え、勤労世代の数が相対的に減る局面にある日本では、「年齢」すなわち「世代」も一つの重要なキーワードになりつつある。

政治勢力として多数派の高齢者

 なぜ、殊更、年齢による区分を重要視するかと言えば、1つはこれまでの本連載で見てきたように、政府との関係では、概して見れば、高齢世代は受益を受ける世代であり、勤労世代は負担する世代であるからだ。もう1つは、高齢世代の方が残りの人生が短く、長期的な時間視野に立った政策よりもどちらかと言うと近視眼的な政策を選好しがちとなるからだ。

 これまで、年齢が若いほど人口が多く年をとるほどに人口が減っていく「ピラミッド型」の人口構造が当然の前提とされ、政治制度や社会保障制度をはじめとする諸制度が組み立てられてきた。しかし、日本においては、少子化・高齢化の進行でピラミッドがひっくり返り、その前提が大きく崩れようとしている。

 具体的には、いわゆる団塊の世代が育児の真っただ中にあった今から30年ほど前の1980年には20%弱に過ぎなかった60歳以上世代は、現在、有権者の38%程度を占め、2050年には52%程度と過半数を超えると予測されている。さらに、人数だけでなく、投票率を加味すると、事態はもっと深刻になる。

 例えば、2010年に行われた第22回通常選挙における年齢別投票率を使って機械的に試算してみると、現在、投票者の47%程度が60歳以上であるが、2050年には57%程度と、有権者に占める割合を大きく上回る。このように、現在とこれからの日本では高齢者が政治勢力としての多数派となる。つまり、相対的に多数の受益者を相対的に少数の負担者が支える社会にあって、単純多数決原理で政策を決定していくのは、ある意味想定外の事態であり、未知の領域に突入しつつあると言えよう。

高齢世代を優遇 
「シルバー民主主義」の台頭

 一般的に、政治家にとっては、次の選挙に勝つことが何よりも重要であり、そのためには、相手候補よりも多くの票を獲得しなければならない。したがって、まだ生まれてもいない将来世代や選挙権を持っていない世代よりも、選挙権を持っている世代、特に、そのなかでも投票率の高い高齢世代を優遇することになり、政治家や各政党にとっては、自分たちへの支持を拡大するためには、他の世代の負担を増やしてでも高齢世代を利する政策を多く提案するインセンティブが強く働くこととなる。つまり、高齢世代の潜在的な政治的プレゼンスの大きさ及び政党の高齢世代への過剰な配慮を背景としたシルバー民主主義の台頭である。

 このように少子化・高齢化の進行下で、多数決に基づく民主主義から世代間格差という問題を考えると、選挙権を持たない世代や棄権が多い世代は、政治力の強い世代から搾取されることになるのは、ある意味当然だと言える。これまでの連載の各回で見た社会保障制度における世代間格差の存在は、まさにその動かぬ証拠である。


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