2024年11月23日(土)

Washington Files

2020年5月25日

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 失業者3800万人、感染者数150万人、1日当たり死者3000人……世界最悪のコロナウイルス危機に見舞われたアメリカ。そこにはこの国ならではのいくつもの特殊事情がある。「アメリカ例外主義」と言ってもよい。

 「アメリカ例外主義American Exceptionalism」とはもともと、古典的名著『アメリカの民主主義』(1835年刊)を執筆したフランスの政治思想家アレクシ・ド・トクヴィルが、アメリカ視察旅行をした際に最初に使ったとされる用語だ。

 その後一般的には、他の国では見られないアメリカ人ならではの特異な考え方や行動様式を総称した社会学的定義として今日にまで言い伝えられてきた。

 そして特に今回、コロナウイルス危機が世界に拡散する中で、アメリカが感染者、死者数いずれにおいても最悪の事態を迎えるに至った要因として、トランプ政権の初期対応の遅れのほかに、「アメリカ例外主義」との関係が指摘され、大きな話題となっている。

大恐慌期に建てられたエンパイアステートビル(BradNYC/gettyimages)

アメリカ的楽観主義

 その第一に挙げられているのが、「アメリカ的楽観主義American optimism」であり、オプティミストの代表格がほかならぬ、トランプ大統領だ。以下のような自らの発言がそのことを如実に物語っている。

 「大丈夫だ、問題ない」(1月22日)、「わが国の感染者はたった5人だけ。すぐにハッピー・エンディングを迎える」(1月30日)、「暖かくなればウイルスは消滅する」(2月7日)、「感染者は合わせて15人だけ。数日中にはゼロになる」(2月26日)、「感染地域は限定されており、大多数の国民へのリスクは非常に低い」(3月11日)……etc。

 ところが、実際の被害はその後現在に至るまで、全米規模でさらに悪化し続けており、5月22日現在の米国内感染者161万人、死者9万5000人と、断トツで「世界1位」の不名誉な記録を更新し続けている。

 一人大統領だけではない。各州の多くの市民たちも、コロナウイルス感染の深刻さをまともに受け止めず、フロリダ、ノースカロライナなどのビーチにはマスク着用もしないまま、水着姿のレジャー客がいつも通りにぎやかに繰り出す光景が見られた。

 他州の都会でもしばらくの間、マスクを着用せず、レストランやバーなど「3蜜」環境での人の出入りが続いた結果、事態を急速に悪化させる要因の一つとなったことが感染症学者の間でも指摘されている。

 ベテラン・ジャーナリスト、デイモン・リンカー氏は、国際ニュース・マガジン「The Week」最近号の中で「わが国の無責任なオプティミズムがコロナ・パンデミックを通じてまずい結果をもたらしている。落ち込んだ経済も6月までにすぐに立ち直るとか、4月15日までには感染者数、死者数ともピークを迎えるといった見通しだったが、その後も死者は毎日平均2000人と増え続けている。今後何カ月、何年にもわたって試されているのは、このようなアメリカ社会に深くしみ込んだ楽観主義であろう」と断じている。


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