2024年12月22日(日)

田部康喜のTV読本

2020年5月28日

(metamorworks / gettyimages)

 BS1スペシャル「デジタルハンター~謎のネット集団を追う~」(5月17日)は、政府の公式発表やSNSを通じて拡散された、画像と映像などの「オープンソース」を分析することによって、国家の犯罪を暴き出すネット調査集団を明らかにした。

 「オープンソース・ジャーナリズム」と呼ばれるようになった、インターネットを駆使した調査報道を始めたのは、オランダに本拠を置く「べリングキャット」の創業者である、エリオット・ヒギンズである。サラリーマンだったヒギンズは、ジャーナリストの経験はない。オンラインゲームの世界では有名人だった。

 世界中のジャーナリストや軍事専門家、各国語に多能な人々らをネットワークで結んで、オープンソースを分析する手法を独自に編み出した。ちなみに、「べリングキャト(bell¿gcat)」とは、イソップ童話の猫に鈴をつける鼠からきている。

 べリングキャトとの名を世界に知らしめたのは、2014年7月に起きた、ウクライナにおけるマレーシア機の墜落事件だった。乗員と乗客の計298人が亡くなった。現場は、ソ連の支援を受けていたウクライナからの分離独立派の拠点だった。

 調査チームは、地対空ミサイルが積み込まれたトラックの映像と動画を発見、写り込まれていた黄色の看板の店と、樹木のカゲなどから場所と日時を特定した。マレーシア機が墜落した地点の近くにこのトラックがいたことがわかった。さらに、ウクライナの電話傍受記録などから、ロシアの諜報機関であるGRUが事件にかかわっていたことも明らかになった。

 マレーシア機の撃墜を誰が指示したのか。チームは4人を特定した。それらの人物は、2019年6月に国際的な機関が逮捕を発表した人物と同じだった。ロシアのプーチン大統領はフェイクニュースとして否定した。

 2020年3月、オランダにおいて、被告人なしの裁判が開始された。

 べリングキャトとは、世界を代表する新聞やシンクタンクと共同戦線を張っている。まず、ニューヨークタイムズ(NYT)のビジュアル・インベスティゲーション・チームである。

 2020年1月、イランにおいてウクライナ機が墜落した。イラン政府は当初、原因を技術的な問題だとしていた。米国によるイランの指揮官殺害事件の直後でもあり、イランの関与が疑われた。

 NYTの調査チームに入っていた、クリスチャン・トリベートは、べリングキャトの元メンバーで、その実績が買われて一年前に引き抜かれた。

 トリベートは、SNSの大量の画像と映像から、給水塔に着目した。衛星写真にも写っていたが、この給水塔の近くにあった建物が、ウクライナ機墜落後に消えていた。トリベートは、この地点が墜落現場ではないか、という推定した。ただ、ウクライナ機の当初の飛行ルートからは外れていた。

 調査の最中に、ウクライナ機が墜落した瞬間を映したと思われる20秒の動画が拡散した。画面中央部にまず光が現れ、10秒後に衝撃的な爆発が起きていた。撮影場所を特定すると、墜落場所と推定した地点から3.6㎞だった。

 NYTは、動画の撮影者に接触すると、「一つ目の爆発で、撮影を始めた。肉眼で飛行機がみえた。そして、二発目のミサイルが飛行機を撃墜した」と、証言した。

 べリングキャトとNYTはイランによる2発の地対空ミサイルで撃墜と断定して、報道した。

 イランのロウハニ大統領もその2日後に事実を認めた。


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