2024年4月19日(金)

日本の漁業は崖っぷち

2012年6月19日

 実際にお金を払って買う消費者の目は甘くありません。漁業者は、「荷受業者や水産加工業者が、高く買ってくれない」と嘆く前に、自分が消費者であった場合、まずいサバを高く買うかどうか考える必要があるのです。

日本の漁業制度そのものが問題

 ある新聞記事を例にとってご説明しましょう。「何がどう問題なのか」という情報が無いこと自体に大きな問題があります。決して漁業者や漁協が悪いわけではありません。日本の漁業制度のそのものの問題なのです。

「新鮮揚がっています!」ビリサバ(小型のサバ):5/25と5/28に中型巻網船がビリサバ(この場合は、小型のゴマサバ)を水揚げしました。28日は3隻が満船で200トン。単価は、キロ当たり27.6円から10円。キロ10円は最安値更新です。価格を聞いた船長は「これじゃ経費倒れ、平均キロ25円はないと」と、渋い顔。行き先は、ほぼ養殖魚用の餌会社です。きょうの水揚げで冷蔵庫はいっぱいとの話で、明日はさらに下がるでしょう。巻網の親方や船長は今晩休むか悩んでいます。漁師さんが獲った魚を何とか高値で売るよう、漁業もがんばっていますが、加工品にも鮮魚にもいかないビリサバは、高値で売れないのが現状です。(6/1 日刊水産経済新聞掲載)

 この記事を読むと、「魚価が安くて大変だな。買う側ももっと漁業者を支えるために高く買ってあげればよいのに、これでは漁業者が育たない!」等同情される方々もいるかと思います。中には、「なぜ安い小さなサバばかり獲れてしまったのだろうか?」と考える方もいることでしょう。

 実は、この中に日本の漁業の問題が凝縮されています。筆者のように日々、漁業で成長を続ける国々と最前線で取引をしている者にとっては、漁業者が悲鳴をあげて「誰か乱獲防止の制度を作ってくれ!」と救いを求めているような内容であり「獲れない、安い、売れない」という最悪な状況を象徴してしまっている典型的な例に映ります。しかしこれは、決して漁業者が悪いのではなく、資源管理制度が悪いのです。

安すぎる魚価

 2011年度の日本のサバ類(マサバ・ゴマサバ)の魚価は、33万トンの水揚げでキロ当たり89円の魚価、約290億円の水揚げでした。一方でノルウェーは、30万トンの水揚げでキロ当たり157円(キロ当たり12.05ノルウェークローネ)の魚価、約470億円の水揚げでした。両国の魚価は大きく異なっています。水揚げは、ほぼ同じでしたが、水揚げ金額に大きな差があります。

ノルウェー漁船内の優雅なラウンジ
(写真:筆者提供)

 漁業で重要なのは、数量ではなく、水揚げ金額が多いことであるはずです。日本は「大漁」を崇める文化がありますが、ここに問題が潜んでいるのです。結果として、ノルウェー漁船は大もうけで写真のような豪華な漁船となりますが、日本の巻網船は、概して古く、人が生活する空間が狭いので、せめて最低限の居住空間を確保してもらうべく、ILO(国際労働機関)の基準を満たす漁船を建造していくことが、これからの目標となっているにすぎないというのが現実なのです。


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