この記事は、WEDGE10月号第二特集『震災で露呈 時代遅れの漁業権』をウェブ版として加筆・修正したものになります。
宮城県の村井嘉浩知事と漁協のバトルが続いている。
争点となっているのは、震災の津波による被害から三陸沿岸の漁業を復興するために村井知事が提案した「水産業復興特区」構想。漁協が事実上独占してきた漁業権を民間企業に開放するという案に対し、「特区は復興の妨げになるだけ」と宮城県漁協が真っ向から反対している。6月には漁業者1万4000人近くの署名を集めて特区構想の撤回を求める請願を県議会に提出した。
9月15日から始まった県議会定例会でも、県の震災復興計画に盛り込まれた特区構想と県漁協が提出した請願の扱いが最大の焦点だ。議会内でも特区構想には異論が根強く、議論の紛糾も予想される。
県は、県漁協とのあいだに水産業の復興を話し合う連絡会議を発足させてこじれた関係の修復も図るが、村井知事はあくまでも特区構想は必要だとする。私たちの取材に対し、「いずれ政府も避けては通れない改革のはず。嫌われ者になっても、最後までやり抜く覚悟だ」と言い切る強い思い入れはどこからくるのだろうか。
漁業権の開放で民間参入を促す
津波で一部を押し流されたという加工施設は、無残な姿をそのままさらけ出していた。漁船の数はかつての1割。活気を失ったままの港で、漁師はこう嘆いた。
「カキのいかだも稚貝も漁船もすべて流された。もう一度、買い直すといっても数千万円もかかる。もうどうしていいのか分からない」
震災から半年。カキの養殖が盛んな宮城県石巻市の牡鹿半島では、漁業再開のメドがつかないことに漁師たちが苛立ちを深めていた。宮城県は県内にある142の漁港すべてが被災し、被害額は漁港施設の破壊で4400億円あまり、漁船は1万2000隻以上が大破して1100億円あまりなどと、合計で7000億円近くに上る。全国では被害総額1兆2000億円。
漁港や漁船、加工場などの施設の大半が壊滅したという意味では、「敗戦のときよりもダメージが大きい」(村井知事)。三陸沿岸は国内の沿岸漁業の中心地でもある。この地域の復興は、日本の水産業全体にとっても欠かせない。
村井知事が提案した特区構想は、「民間活力で早期の復興を図る」。キモは、漁業法によって漁協に優先権が与えられている漁業権を民間に開放することだ。例えば、養殖を行うための「区画漁業権」の場合、漁業権の免許は都道府県知事から与えられるが、漁業法では、①漁協、②漁業者世帯の7割以上が所属する法人、③漁業者7人以上が株主または社員の法人、の順とするよう定めており、宮城県内では宮城県漁協が事実上、独占している。
特区構想では、この優先順位が撤廃され、法人も県漁協と並んで漁業権を得られるようにする。漁業者が民間資本を活用して設立した法人、漁業者を社員とする民間企業の参入を想定している。民間と漁業者を県が責任もってマッチングすることで、企業に漁業権を奪われてしまうという漁業者の不安にも配慮する。