資源の減少に魚価の低迷や燃料代や漁具などの価格の高騰も漁業者に追い討ちをかける。
「震災前からホタテの養殖やタコ漁などをしていましたが、漁具や燃料などの経費を差し引くと、年間の手取りは200万円以下という漁師ばかりです」。
宮城県との県境に近い岩手県大船渡市三陸町で漁業を営む瀧澤英喜さんはこうこぼす。
養殖ホタテの卸価格はかつての半分程度にまで低下し、漁で獲る魚の価格も下がる一方だ。少ない収入を補おうと、あえて時化のときに海に出る漁師も少なくない。他の漁業者が避ける危険な海で漁をするのは、時化で水揚げが減って市場の買い取り価格が上がるのを見込んでのことだ。「以前から無理に無理を重ねていた。いずれは立ち行かなくなるかも知れない」。瀧澤さんは胸のうちを明かす。
漁業者数、漁獲量、漁業者の所得、いずれも低落し、日本の漁業は負のスパイラルに陥っている。三陸地方の漁業の危機は震災によって引き起こされたのではない。
政策研究大学院大学の小松正之教授は、「日本の漁業は危機にあるということを認識すべきです。現在は規模も小さく、ビジネスとして儲かるにはほど遠い。集約が進まなければ資源管理の問題も解決されません。そのためには漁業権を開放し、民間の資本を導入することが欠かせません。既得権益を手放さない漁協の改革こそが必要なのです」という。
村井知事は特区構想の意義をこう強調する。「特区によって成功モデルを作っていけば、水産業に魅力を感じる若者が増え、後継者不足の問題も解決する可能性も見えてきます。ノルウェーは、日本とは規模が違いますが、若者が一番就きたい職業が水産業だと言われています。それは、民間にも平等にチャンスを与えているからだと思います。そのモデルを宮城県から示していきたい」。
WEDGE10月号第二特集『震災で露呈 時代遅れの漁業権』では以下の構成でより詳しく漁業権の実態に迫ります。
◎震災前から訪れていた危機
◎海と魚は漁協だけのものか
◎日本の漁業 復活の処方箋
◎「水産業復興特区」はなぜ必要か ─村井嘉浩・宮城県知事に聞く
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