「人類史の常識をくつがえす!」「今世紀最高の必読書!」と、大げさな惹句が帯に踊る。上下巻の大部にもかかわらず、「37万部突破!」ともある。NHKで「大特集」を放送したのだともある。どんなものだろうと、手に取った。
期待したほどの常識の転覆はなかった、というのが率直な感想である。原著のタイトル「Sapiens(副題 A Brief History of Humankind)」が示すとおり、既知の知見を大掴みし、端的な言葉でわかりやすく説明する、有名塾講師のベストセラー本の趣がある。
役に立ちそうな「歴史年表」
ただ、歴史書としては、三つの点で特筆すべきものがあると思った。
まず、本書の冒頭にある「歴史年表」。人類の歴史のあらましが、ひと目でわかる。これだけでも、学習に役立つ。
「135億年前、物質とエネルギーが現れる。物理的現象の始まり。原子と分子が現れる。化学的現象の始まり。」という記述から始まる。やがて地球という惑星が形成され、38億年前に生物が出現する。「生物学的現象の始まり」である。
250万年前にいたってようやく、「アフリカでホモ(ヒト)属が進化する」。その後、異なる人類種が進化するなか、本書の”主人公”であるホモ・サピエンスが東アフリカに登場するのは、20万年前である。
7万年前に虚構の言語が現れ、認知革命が起こる。これが、「歴史的現象の始まり」である。同時に、ホモ・サピエンスがアフリカ大陸の外へ拡がっていく。
1万2000年前に農業革命、500年前に科学革命が起こり、ヨーロッパ人の海洋征服とともに、「地球が単一の歴史的領域となる」。
200年前に産業革命が起こり、「家族とコミュニティが国家と市場に取って代わられる」。「動植物の大規模な絶滅が起こる」。続いて、「今日」、「未来」という歴史区分がある。
ここには冒頭3ページ分の年表の一部を拾っただけだが、人類史を概観するにあたって、物質とエネルギーの出現から説き起こし、生命の知的設計や「超人」との交代にまでいたる語りのスケールの大きさが、歴史書としては目新しいことがわかるだろう。
従来の歴史学の枠を超え、最新の科学的知見をもふまえて、いわば文理融合の視点でホモ・サピエンスをとらえたのは、(科学者の視点からは当たり前のように思うが)、歴史学では斬新な試みといえるのだろう。