AI(人工知能)の何度目かのブームがやってきたようだ。メディアには毎日のように、AIの2文字が踊っている。
このままコンピュータの性能が上がり続ければ、近い将来、「リバースエンジニアリング」によって人間の脳を再現できるのでは?と期待する人もいる。
一方で、物理学の進歩によって、脳の活動をつぶさに見たり、触れたりすることができるようになり、神経科学は「新たな黄金時代」に入ろうとしている。
<いまや脳スキャンによって次々と得られるデータが解読されつつあり、その進歩は驚くべきものだ。(中略)望遠鏡の発明から宇宙時代の到来までは三五〇年かかったが、MRIや高度な脳スキャナーが登場してからわずか一五年で、脳を外界と能動的に――つまり外界に働きかける形で――つなげられるようになっている。なぜそんなにも早くなし遂げられ、この先またどれだけのことが待ち構えているのだろう?>
理論物理学者が、宇宙と並んで自然界の大きな謎である「心」にメスを入れたのが、本書である。
最新科学をわかりやすく伝える語り手
著者ミチオ・カク教授は、「ひもの場の理論」などを提唱した理論物理学者。ニューヨーク市立大学で教鞭をとりながら、テレビやラジオの科学番組に出演し、最新科学をわかりやすく伝える語り手としても評価されている。
私は、少し前の著作『2100年の科学ライフ』(NHK出版)も面白く読んだ。専門以外の分野に関しても人脈を生かして多数の専門家にインタビューし、研究現場に赴き、臨場感あふれる語りを展開するのが、カク教授の特徴だ。
そのうえ、欧米のSF小説や映画、テレビドラマのたとえが随所に散りばめられ、肩の力を抜いて楽しめる。映像が目に浮かぶようで、SF好きにはたまらない。
カク節ともいえる語りの妙が本書でもいかんなく発揮され、脳研究の歴史から最新の研究成果、未来の展望まで一気に読める。