2023年1月31日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2017年2月24日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

物理学者が脳を語る意味

 特筆すべきは、物理学者の視点で脳研究とコンピュータ・テクノロジーの進展をとらえている点だ。両分野が融合し、シナジーを起こしつつある今だからこそ、物理学者が脳を語る意味がある。

 脳研究における古典ともいえるフィニアス・ゲージ氏の逸話(1848年、鉄道工事現場で鉄棒が頭蓋に突き刺さった)から筆を起こし、補足「意識の量子論?」にいたる地平まで読者を連れて行く筆力には、ただただ舌を巻く。カク教授にしかできない力技といえそうだ。

 まず第Ⅰ部では、脳研究の歴史を概観し、物理学の研究室を飛び出した新しい機器の数々が、思考のメカニズムを明らかにする見事なカラー写真を見せてくれたことについて語る。

 脳研究の急速な進歩は、「今日の物理学者がわれわれのニューロンを駆けめぐる電気シグナルを支配する電磁気学をよく理解していたおかげだとも言える」と、カク教授はいう。

 「アンテナ、レーダー、ラジオ、電波塔での物理的プロセスをあれこれ計算するのに使われている」マクスウェルの数式は、まさしくMRI(磁気共鳴画像法)の基礎をなしている。

 多くの点で神経科学の進歩の鍵を握っていたのは、「電磁力と核力をフルに利用してわれわれの心にひそむ大いなる秘密を探る、現代物理学だった」というわけだ。

 第Ⅱ部では、コンピュータの処理能力が2年ごとに倍になるというムーアの法則をひきあいに、こうしたテクノロジーの進む先を考える。

 その一つがBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)だ。コンピュータの性能向上やナノ・テクノロジーの進展により、脳をコンピュータに直接つなげて周囲のものをコントロールするBMIの分野が現在、急成長している。

 SFさながら、個人の記憶を記録したり、他人の心を読んだり、夢を録画したり、念力を実現することさえ可能にした新しいテクノロジーの現場が紹介され、教授自身の驚きも伝わってくる。


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