巨大防潮堤の建設ははたして妥当なものなのか。専門家の評価は厳しい。東京大学先端科学技術研究センターの岩崎敬客員研究員は、「防潮堤の耐用年数は60年程度です。老朽化を防ぐには膨大な補修費がかかる上に、防潮堤の構造や形状もまだ決まっていない。これでは費用対効果を検証しようもない。
しかも、東日本大震災クラスの津波が来れば、この高さでは不十分。巨大防潮堤の建設よりも高いところへの避難路を確保し、地震が来たらとにかく逃げるという教育を徹底するなど、ソフト・ハード両面で安全を担保すべきです」と指摘する。
大槌町では震災以来、住民の流出に歯止めがかからない。今年1月に町が実施した調査では、「被災前に住んでいた土地で住宅を再建したい」と答えた住民はわずか19%。取材した住民の一人は、「知り合いが盛岡へ出て行った。住宅も雇用も確保されないから、町を出たいという人ばかりだ」と嘆く。巨額の予算を投じて防潮堤を建設しても、住む人がいなくなっては身も蓋もない。
津波対策の必要性は今さら言うまでもない。しかし、巨大防潮堤の建設を急ぐあまり、復興計画の優先順位をシビアに見極めることがおろそかになっていないだろうか。
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