2024年11月22日(金)

変わる農業 変わらぬ農政

2012年7月2日

 FTAによる市場開放の実績については、対象範囲、スピードなど国別に大きな差異がある。今後は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)のようなより包括的な貿易自由化の取り組みが、他のFTA交渉にも圧力を与えていくだろう。

ドーハ・ラウンドは課題山積だが……

 確かに、ドーハ・ラウンドは行き詰っている。米国と中国、インド、ブラジルなど新興経済国の間で、NAMA(非農産品市場アクセス、すなわち工業品の関税引き下げを求めているもの)が最大の対立点となっている。これに対抗して途上国は先進国の農業補助金削減など農業分野への対立を先鋭化させている。

 また、最近米国商工会議所関係者がサービス交渉に前向きの兆しを指摘したが、このサービス分野に関する合意は困難との認識を持っている。理由は、新興経済国がこの分野の自由化準備はまだできていないと明言しているからだ。例えば外国人看護師、医師などは日本でも起こっている問題である。

 元USTRクレイトン・ヤイター氏も、FTA路線について、「農業を除外すると全体を歪曲するので好ましくない」と述べている。

WTO交渉再開に向けて国際世論の喚起を

 このように、ドーハ・ラウンドにも問題点があるものの、先述のようにFTAは限界を露呈してきている。FTAの説明を聞けば聞くほど、実体がわからないという事態だ。今こそ、WTOを見直すべきではないだろうか。IPC関係者の間では、FTA路線の主要推進グループは、工業界、サービス業界だと認識している。ただし、米国メンバーの一人は、政治的、地政学的安全保障問題が推進力だとコメントした。

 農業分野の最近の主要議題は、食料安全保障であり、具体的には、アジア域内では生産性向上による自給率向上が意識され、貧困者の飢餓、栄養失調を生む価格の急騰(乱高下を含む)と高値対策、輸出規制の抑制、または禁止、そして緊急時対応備蓄制度の創設(各国、地域で対応)などが最大の焦点となっている。

 もともと日本にとって農業は輸出産業でないのでFTA戦略の中心にあるわけではない。WTO多国間交渉こそ国内補助金削減や輸出補助金廃止など、包括的で本格的な農政改革(米欧含め)を実現できるルートである。日本はもっとWTO交渉再開に向けて国際世論を喚起するよう尽力すべきである。

 IPCは現状を踏まえて次の3つの勧告をしている。


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