2024年4月23日(火)

変わる農業 変わらぬ農政

2012年7月2日

 そもそも、農業の貿易自由化について、FTAはどの程度効果があるのだろうかという疑問も提示されている。FTAは実際に使用されている実行税率を基本的にゼロまで下げる交渉だが、農業を中心に多くの例外規定が設定されているのが現実である。特に、センシティブ産品については自由化の影響を最小化する条項がしばしば設定されている。

 例えば、米国・オーストラリアFTAでは、米国が弱い砂糖と乳製品が例外扱いになった。砂糖は現行の関税割当制度が温存された。乳製品も関税割当となり枠の拡大、高水準の枠外税率が維持される。牛肉、タバコ、綿、ピーナツ、アボカドは段階的に関税割当枠拡大と税率引き下げが行われ、最終的に撤廃される。またアメリカ側に牛肉に対しては、輸入急増対応のセーフガードが認められる。農業貿易の障壁は世界で広く、普遍的に行き渡っており、場合によってはそれが貿易禁止的でもあり、FTA路線が一方的にWTO路線に勝利しているわけではないのだ。

増えすぎたFTA
「ヌードルボウル」批判

 FTAは貿易政策の中心となってきたが、その数の多さや複雑に絡み合い網の目のようにオーバーラップしている様子は「ヌードルボウル」、あるいは「スパゲッティボウル」と呼ばれ、問題視されている。

 また、FTAでは原産地証明が必須なので、行政コスト増加が問題視されている。また人為的で非合理的なサプライチェーン構築の可能性も起こりうるという問題がある。

複雑化で中小企業は活用が難しく

(図-2)アジア太平洋地域FTA統合の将来?
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 複雑化するFTAは、中小企業では理解が難しく、活用が難しいとの見方が欧州や東南アジアメンバーからも指摘されている。国の負担で交渉しているFTAが大企業だけのものであってはならないだろう。複雑なFTAネットワークの図を見たFTAに積極的な輸出国メンバーから、「やはりWTOの方が、農業に関しては効率的ではないか」という発言があったのには正直驚いた。(図-2参照)

 その他に、実体経済へ本当に好影響があるのかという疑問もある。ラテンアメリカでは、実体経済にあまりインパクトがないという見方を、協定交渉専門家がしていた。効果はケースバイケースということなのか。費用対効果の検証が将来の大きな課題となるだろう


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