2024年12月11日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年8月12日

中国による宇宙の攻撃的使用

 核弾頭や大陸間弾道ミサイルの発射機の数で米国に圧倒的に劣ると考える中国は、米国に非対称戦を仕掛けている。中国は、弱者の選択として、米国の情報通信ネットワークを破壊することが、米国に対する劣勢を挽回するものだと考えているのだ。そのため、中国は衛星破壊兵器(ASAT)の開発も進めてきた。2007年に中国は、初の衛星破壊実験を実施して自国の気象衛星を破壊し、2013年には高軌道にある衛星を破壊する能力を獲得したと考えられている。中国は24基のASATで米軍の衛星ネットワークを無効化できるとしている。中国は衛星破壊兵器の開発を急がせてきたが、すでに自らが衛星を利用した通信情報ネットワークを構築し、その脆弱性に怯えるという皮肉な結果になっている。

 スペース・デブリ(宇宙ゴミ)を出す物理的な衛星破壊実験を控える中国は、レーザーやハイパー・マイクロウェーブ等のDEW(Directed Energy Weapon)を用いた衛星破壊能力を開発している。しかし、物理的手段にしても非物理的手段にしても、衛星を破壊する手段は不可逆的である。ひとたび不可逆的な手段を用いれば軍事衝突は免れない。そのため中国は、可逆的手段による衛星ネットワーク無効化の能力向上を図っている。可逆的手段には、アップリンクおよびダウンリンクのジャミング(電波妨害)、サイバー攻撃によるデータのインターセプト・監視、データ汚染等が含まれる。

中国のその他の宇宙開発

 中国の有人宇宙開発も「三歩走」という三段階の発展戦略に基づいて行われている。同戦略は921工程と呼ばれ、1992年9月21日に決定された。その基になったのが、1986年に鄧小平氏が指示した「863計画」である。中国の宇宙開発も、人民解放軍の発展と同様、1980年代半ばの鄧小平氏の指示に基づいて実行されているということだ。

 第一段階である第一歩は、有人宇宙船を発射して宇宙を往復する初歩的・実験的段階であり、神舟1号(1999年11月)~神舟6号(2005年10月)で実現された。第二段階である第二歩は、宇宙船と宇宙ステーションのドッキングおよび宇宙実験室での短期滞在であり、二段階に分かれている。その第一段階は、神舟7号(2008年9月)~神舟10号(2013年6月)の打ち上げ、および神舟10号と天宮1号のドッキングを以て完了し、第二段階は、2016年9月に酒泉衛星発射センターから打ち上げられた天宮2号と、同年10月に同センターから打ち上げられた神舟11号とをドッキングさせ、宇宙飛行士の30日間におよぶ宇宙での滞在を実現した。

 第三段階は長期滞在型「天宮」宇宙ステーションの建設であり、中国は、この宇宙ステーションを2022年までに完成させるとしている。2024年に運用を終えるとされる国際宇宙ステーションに代わって、中国単独の宇宙ステーションが宇宙に浮かぶことになる。中国は、超重量型衛星および宇宙ステーションの巨大なペイロードを、深宇宙開発および軍事目的のために利用すると考えられている。さらに、各国が、国際宇宙ステーションの代わりに中国の宇宙ステーションに依存することになれば、中国の国際社会における影響力は強まることになる。

 中国は月面探査も積極的に行ってきた。中国の月探査は「嫦娥工程」という名称で、2004年から開始され、他の多くのプロジェクト同様、「無人月探査」「有人月面着陸」「月面基地建設」の三段階の発展計画を有している。「無人月探査」プロジェクトは三期に分けて実施されており、「繞(周回する)」「落(着陸する)」「回(帰還する)」である。

 第一期は、2007年に「嫦娥1号」が月を周回し、月面地形、地質、環境の探査を行なった。第二期は2007~2016年の期間に、「嫦娥2号」および「嫦娥3号」が月面に無人着陸し、2013年12月~2016年8月までの期間、月面車「玉兎」が月面調査を実施した。第三期は2016~2020年の期間とされている。2018年12月8日に「嫦娥4号」が打ち上げられ、2019年1月3日に月の裏側に着陸して月面探査車による調査を開始した。月にあるとされる水や氷のほか、核融合発電に使われる「ヘリウム3」など、資源の分布状況も調べているとされる。

 月探査プロジェクトの技術面は、2004年に設立された国防科技工業局探月与航天工程中心が担っている。「嫦娥1号」は、中国科学院宇宙科学・応用研究センターが開発し、ロケット及び衛星システムは、中国航天科技集団有限公司所属の中国運搬ロケット技術研究院と中国宇宙技術研究院が研究開発・製造を行なっている。


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