2022年12月10日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年8月12日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

中国の宇宙開発の意義

 1991年の湾岸戦争を見た人民解放軍は、米国のRMA(軍事における改革)に触発され、米軍同様、ネットワーク・セントリック・ウォーフェアー(ネットワークを中心とした戦い)能力の構築にまい進してきた。情報通信ネットワークを構築する上で、音声データを含む世界の情報の約95%が流れる海底ケーブルは米国に掌握されていると考える中国は、海底ケーブルは脆弱だとして宇宙の利用を積極的に推進してきたのである。

 一方で、人民解放軍がネットワークに依存した戦闘を展開することは、それまでの人民解放軍の強点であった「数」の優位を放棄することでもある。現在の人民解放軍は、新しい戦闘を戦う能力の構築を急速に進める必要に迫られているとも言える。人民解放軍は、制海権および制空権と同様に、制情報権という概念を用い、情報戦を戦うという。

 人民解放軍は、陸海軍の統合作戦のみならず、宇宙、サイバー空間、電磁波といった各領域を統合しようとしている。中国の軍事戦略では、情報戦と電子戦を「網電一体戦」という単一の概念に集約するとともに、信息対抗(情報対立)の概念も用いている。情報戦の非電子的要素には、心理的操作と欺瞞が含まれる。さらに中国は、宇宙とサイバー空間における活動の統合も進めている。宇宙は衛星を打ち上げてネットワークを形成する領域であり、サイバー空間はネットワークによって創出される戦闘領域であるという認識だ。中国の情報通信ネットワーク構築とサイバー・オペレーションは表裏一体なのである。

 中国は、宇宙における活動でもサイバー空間における活動でも後発組である。米国の能力を恐れる中国は、それら領域における能力の向上を急いでいる。中国の強点は、国内の資源を自由に使用できることだ。中国の企業の活動も人民解放軍の能力向上に寄与していることに留意しなければならない。

 しかし、さらに留意しなければならないのは、中国の情報通信ネットワーク構築の目的であろう。中国は、自国が構築する情報通信ネットワークを軍事的に利用しようとしているが、さらに大きな目的があると考えられるからだ。中国は、衛星を用いた情報通信ネットワークを積極的に進めてきたが、最近では海底ケーブルの建設にも積極的だ。さらに魅力的なアプリを展開し、IP(インターネット・プロトコル)等の標準等も実装しようとしている。中国は、情報通信ネットワークそのものを掌握しようとしているのだ。ネットワークを掌握し、情報も掌握できるようになれば、中国は国際社会において、政治的、経済的、軍事的に支配的な地位を占めることになるだろう。中国は、世界各国が中国のネットワーク・インフラに依存し、中国のルールに則って活動する国際社会を目指そうとしているのだ。

 中国は、2020年には40基以上のロケットを打ち上げるとしている。さらに多くの衛星を打ち上げようというのだ。中国は、その目的を達成するまで、今後も宇宙開発を進めていくだろう。

  
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