チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年8月12日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

7月31日、北斗システムの完成を発表した習近平国家主席(Xinhua/AFLO)

 2020年6月23日、中国は、55基目の「北斗」測位衛星システムの衛星の打ち上げに成功した。この衛星は、30基から成る「北斗3号」システムの最後の1基である。中国は、この衛星の打ち上げをもって、「北斗3号」システムを完成させたことになる。

 中国が打ち上げているのは「北斗」システムの衛星だけではない。中国航天科技集団有限公司によれば、2019年には世界で102基のロケットが打ち上げられたが、そのうちの34基は中国が打ち上げたものだ。これらロケットで、中国は43基の衛星を打ち上げている。

 中国は、これら衛星を用いて、情報通信ネットワークを構築しようとしている。本稿では、中国が積極的に宇宙開発を進め、情報通信ネットワーク構築を進める背景とその意図について考察する。

中国の宇宙発展戦略

 中国の宇宙発展戦略は、2016年から2020年の「中国共産党中央委員会の国民経済と社会発展・第13次5カ年計画」(十三五)に則って展開されている。宇宙開発は中国の国家戦略であり、「軍民融合」を推進する中国では、宇宙を用いたネットワークは商用であるだけでなく軍事的にも利用される。2016年4月に、有人宇宙開発プロジェクトの副総指揮官に中央軍事委員会装備開発部の副部長が指名されていることからも、中国の宇宙開発が軍事目的を有していることが理解できる。

 2016年12月27日、国務院新聞弁公室が『中国的航天(中国の宇宙)』白書を発表した。同白書は、2000年、2006年、2011年および2016年に発表されている。2016年の白書は、その前文で「中国の宇宙事業は、1956年に創建されて以来、「両弾一星」、有人宇宙開発、月探査に代表される輝かしい成果を上げてきた」と述べている。

 第一に挙げられた「両弾一星」の「両弾」とは原子力爆弾・水素爆弾およびその運搬手段であるロケット、「一星」とは衛星を指している。中国の宇宙開発は、戦略核兵器を開発するために始められ、後に衛星の打ち上げが加わったのだ。1961年8月20日、毛沢東主席と周恩来総理を含む党中央が「両弾」の研究開発に同意し、1966年10月27日に核弾頭を搭載した「東風2号(DF-2)」の発射実験が行われ、「両弾結合」が実行された。

 白書が示す「発展のビジョン」を見れば、中国の宇宙開発が経済目的だけではないと理解できる。中国の宇宙開発発展のビジョンには、「全面的に宇宙強国を建設する」ことが最初に掲げられ、「自主的で制御可能なイノベーション発展能力、先端科学に焦点を当てた探求研究能力、強大で持続可能な経済社会発展サービス能力」に続いて、「有効で信頼できる国家安全保障能力、科学的で効率の高い近代的な統治能力」が挙げられているのである。

中国の衛星打ち上げ

 中国は、「北斗」測位衛星システムを「三歩走」という三段階で発展させてきた。第一段階は「北斗1号」システムであり、2000年末までに中国本土にサービスを開始した。第二段階の「北斗2号」システムは、2012年末までにアジア太平洋地域に対してサービスを開始し、中国周辺で測位誤差10メートル未満を達成している。「北斗3号」システムは、2018年に19基の衛星を以て基本的なネットワークを完成し、2020年6月23日に打ち上げられた30基目の衛星を以てネットワークを完成させた。「北斗3号」システムは、2020年末までに全地球規模で測位航法援助サービスを提供する。

 さらに中国は、2035年までに、「北斗3号」システムを、ユビキタス性、AIとの融合を強化した総合時空システムにするとしている。こうした機能が、UAVのスウォーム攻撃(蜂の群れのように統制の取れた多数のUAVによる攻撃)などに用いられるのだ。

 測位衛星システムは、リモート・センシング衛星と組み合わせて、世界中の海底資源の探査等を宇宙から行うこともできる。中国はリモート・センシング衛星の打ち上げにも積極的である。中国は、2006年に初のリモート・センシング衛星「遥感1号」の打ち上げに成功して以来、「遥感」シリーズを継続して打ち上げ、2018年1月までに「遥感30号」システムのネットワークを形成したのだ。

 中国は、2018年1月に「遥感30号」第4組を打ち上げ、第1組から第3組の合計9基の衛星と併せて、世界中の艦船を追尾できるようになったという。中国は、さらに2019年7月26日に「遥感30号」システム第5組衛星を発射した。中国政府は「遥感30号」システムを宇宙電磁波環境探査および関連技術試験に用いるとしているが、軍事目的にも用いられると分析されている。それが、米海軍艦隊に対する対艦弾道ミサイル攻撃を実施するための捜索である。中国には、公開されていない、さらに分解能の高い軍用衛星も存在する。

 中国は、通信のためにも宇宙を利用しており、高速ブロードバンド通信衛星の開発も加速している。中国の高速ブロードバンド通信衛星は、2018年末に打ち上げられ、2019年に運用が開始されており、投資額は約100億元(約1700億円)に上る。中国は、高速ブロードバンド通信が国内外を飛行する航空機、世界を航行する艦船、陸上を移動する車両等に高速大容量通信を提供するもので、「一帯一路」戦略及び海外発展戦略に貢献するとしているが、軍用機、艦艇、軍用車両等が展開する際にも当然利用されるだろう。

 しかし、衛星を用いた通信は大気の影響を受ける上、そもそも通信容量に大きな制限がある。中国は、この制限を緩和する努力も続けている。中国航天科技集団有限公司は、2019年12月27日、通信用および高軌道リモート・センシング用プラットフォームで、宇宙探査にも応用可能な「東方紅5号」超重量型衛星(ペイロード:1.5トン)を打ち上げ、運用を開始している。打ち上げに用いられたロケットは、低軌道で25トン、静止軌道で14トンの宇宙機器を運搬することができる。

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