温室効果ガスの発生を
意図的に無視した資源循環戦略
あるべきプラスチックごみの対策とは何か。石川教授は「海洋プラスチックごみ問題と地球温暖化問題の双方に対処するには、散乱ごみを減らす取り組みを進めつつ、使用後のプラスチック製品のリサイクルを進め、自治体におけるプラスチックごみの焼却量を減らす取り組みが必要だ」と語る。
使用後のプラスチック製品のほとんどは通常の廃棄物処理のフローの中で処理されている。しかし、そのフローに入らず、ポイ捨てなどで海岸、河川敷、路上に散乱したごみが、海洋に流出している。こうした散乱ごみの回収率を高めることができれば、海岸に漂着するごみ自体を減らせる。
ペットボトルが模範になる。その回収率は現在、自治体と事業者とによるものを合わせて販売量の約9割に達している。これはペットボトルが単一素材からできており再資源化しやすいことや、回収の仕組みが整っていることも大きな要因だ。同様にプラスチックごみを「思わず捨てたくなるような」ゴミ箱の設置などを業界団体と自治体が進めることも一つのアイディアだろう。
また、地球温暖化問題に関連するのが「サーマルリサイクル」だ。プラスチックごみ処理のうち56%は、焼却して熱回収(焼却することで得た熱エネルギーを回収・利用すること)を行う「サーマルリサイクル」が占めている。そのうち65%以上が自治体のごみ焼却によるものだ(プラスチック資源利用協会資料、18年)。
前出の石川教授は「サーマルリサイクルのうち、セメント製造や紙パルプ産業の燃料としてプラスチックごみを加工して使う場合は熱回収率が70%程度ある。しかし、自治体のごみ焼却炉で焼却して得た熱を用いて発電し、電力としてエネルギーを回収する場合、その回収率は平均で10%程度しかない。これはプラスチックごみをプラスチックとして使うマテリアルリサイクルや、分解して化学製品の原料として用いるケミカルリサイクルと比較して温室効果ガスの削減効果で明確に劣り、とるべきではない政策だ」という。
政府は50年までに80%の温室効果ガスの削減(13年度比)を掲げる。しかしプラスチック資源循環戦略では、サーマルリサイクルの「方法」を区別せずに記載している。これについて安井至・東京大学名誉教授は「焼却によって発生する温室効果ガスの影響を意図的に無視したものと言わざるを得ない」と指摘する。
レジ袋有料化でエコを語る前に、リサイクルのあり方を見直し、プラスチック資源循環全体で環境負荷を減らす戦略が求められている。
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