2024年11月21日(木)

World Energy Watch

2020年7月22日

 ドイツをはじめ欧州主要国ではコロナ禍により電力需要が大きく落ち込んだため、出力の調整ができない天候依存の風力、太陽光などの再生可能エネルギーからの発電に頭を悩ますことになった。電気は需要と供給がその時々で一致しなければ停電になるからだ。英国では全国の送電管理を行っているナショナルグリッドが出力制御を行えない(停止を命じることができない)小規模事業者の設備からの発電量により、供給量が、落ち込んだ需要量を超える可能性が出てきた。供給過多による停電を恐れたナショナルグリッドは、事前の停止指示に応じた場合には補償する制度を急いで導入し、多くの小規模事業者が参加した。

(petovarga/gettyimages)

 ドイツでも電力需要は大きく落ち込んだが、需要に合わせ出力を調整できない再エネからの発電量は減少しなかったので、再エネが発電量に占めるシェアは大きく上昇した。今年1月から6月までの実績では風力30.5%、太陽光11.7%、バイオマス(木材などの生物資源)9.8%、水力4.0%、発電に占める再エネ比率は56%に達した。二酸化炭素を出さない再エネからの発電量が増え二酸化炭素排出量が減少するのは望ましいが、問題は電気料金だ。

 先に、ドイツでのコロナ禍が引き起こした電力需要減少による電気料金上昇の可能性に触れたが(『ドイツ、新型コロナで世界一高い電気料金がさらに上昇へ』)、その後の電力需要量の落ち込みにより電気料金上昇額が大きくなる可能性が高まり、ドイツ政府は電気料金上昇抑制のため税金を投入することを決めた。

 ドイツは2038年までに脱石炭を行うことを決め石炭・褐炭火力発電所を徐々に閉鎖する計画だが、脱石炭により電気料金が上昇するのではとの懸念も国民の間にはある。石炭火力抑制、再エネ主力化を目指す日本もドイツの問題を良く分析し、電気料金上昇を避ける策を講じる必要がある。

伸びる再エネ比率

 コロナ禍の影響によりドイツでは電力需要が大きく落ち込んだ。今年1月から6月の発電量の推移を見ると、昨年同期比4月-18%、5月-15%と大きく落ち込んでいる(図-1)。

 今年前半期の発電量は、2427億kWh、昨年同期の2662億kWhから9%減になっている。一方、再エネからの発電量は増加した。電力需要が大きく落ち込んだ4月には独気象庁が記録を取り始めた1881年以降最も日照時間が長くなり、太陽光発電量が大きく増えた。今年1月1日から7月19日時点までの総発電量2664億kWhのうち、風力が29.4%、太陽光12.1%、水力とバイオマスを加えると総発電量の55.3%が再生可能エネルギーになっている(図-2)。

 コロナ禍で国内の電力需要が落ちる中でさらに電力輸出がなくなる問題も発生した。周辺諸国でも電力需要が落ち込んだため、電力の純輸出国であったドイツが4月には純輸入国に転じた。4月に電力輸入量が輸出量を上回るのは、過去15年間の統計を見る限り初めてのことだ。結果、発電量は需要量以上に落ち込んだ。

 需要量、輸出量が落ち込む中で再エネからの発電量が増えたことにより問題が生じた。一つは、卸電力価格がマイナスになる時間が増えたことだ。設備の再稼働に大きな費用が必要になる火力発電と電力の卸価格がマイナスでも固定価格買取制度(FIT)の下で決まった金額を受け取れる再生可能エネルギー設備は供給を止めないため、供給が過剰になり卸価格はマイナスになる。電力需要量が減少したため卸価格がマイナスになる時間が増えた。月平均の卸電力スポット価格の推移は図-3の通りであり、4月、5月はマイナス価格が増えたため平均価格も下落している。


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