2022年12月9日(金)

World Energy Watch

2020年7月22日

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山本隆三 (やまもと・りゅうぞう)

常葉大学名誉教授

NPO法人国際環境経済研究所所長。住友商事地球環境部長などを経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。著書に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム社)など多数。

脱石炭で電気料金は上昇?

 ドイツ政府は2022年に脱原発を行うことを決めているが、二酸化炭素排出量が多い褐炭・石炭火力も2038年までに閉鎖することになった。ドイツは国内3カ所、うち2ヵ所は旧東独地域、に地域経済を支える褐炭炭鉱を持ち、世界最大の褐炭生産国だ。2019年実績では発電の20%を依存している。さらに、ロシア、米国、豪州などからの輸入炭による石炭火力が発電の10%をまかなっている。褐炭と石炭を合わせた比率は、日本とほぼ同じ30%だ。

 褐炭発電の急速な削減は炭鉱地域の経済に大きな影響を及ぼすことから、時間を掛けて削減することになる。最近の原油、天然ガス価格の下落により、石炭の価格競争力は相対的に低下しているが、まだ石炭火力はコスト競争力がある。市場経済の下では民間の発電事業者の意向に背き政府が閉鎖を指示することはできないため、2038年に向け段階的に閉鎖を行う発電事業者には補償が行われる。また、地域、発電所と炭鉱の労働者への補償も行われる。さらに、脱石炭により電気料金上昇が引き起こされる可能性があり、2023年以降エネルギー多消費型企業の国際競争力維持のため電気料金を補助する予算も措置される。

 脱石炭に関しドイツの市場調査会社EuPDリサーチが行った世論調査の結果が昨年4月に発表されているが、「電気料金の大幅上昇」懸念が4割強、「電力輸入量増加」懸念が4割弱だったと報道されている。ドイツは、褐炭・石炭火力減少分を天然ガス火力と再エネで埋め、2030年には再エネからの発電量を65%にする目標を持っている。自給率の問題を考えれば再エネの選択は正しいように思われるが、問題は電気料金だ。ドイツの研究所アゴラ・エネルギーヴェンデは、脱石炭による電気料金上昇の影響は1kWh当たり0.4セントに過ぎないとのレポートを出しているが、今回のコロナ禍による再エネからの発電量の調整に伴うコストを見ると、再エネ設備導入に係わる追加費用が必要なのではと懸念される。

 具体的には、一部地下化により建設が難航している北部から南部への送電線の完工、再エネからの発電量が落ちた時のバックアップ電源の用意、大型蓄電池など蓄電装置の導入、水素化だ。どの政策にも大きな投資が必要になり、電気料金に跳ね返る可能性が高い。ドイツは2022年に脱原発を行う予定だが、3基は電力需要が旺盛な南部にある。しかも大型設備ばかりであり設備量は合わせると400万kWを超えている。原発停止後は今も依存しているフランスからの電力輸入量増加で対処することになるのだろうが、さらに石炭・褐炭火力を閉鎖し、南部工業地帯の電力需要に応えることが出来るのだろうか。国民の中に電力輸入量の増加と電気料金上昇を懸念する声があるのは全く根拠がない訳ではない。

 日本でも電力需要量は欧州ほどではないが落ち込んでいる。再エネ発電量の上昇は、ドイツと同様来年度以降の再エネ賦課金額の上昇を招くことになる。日本も2030年に向け石炭火力抑制、再エネ電源主力化を図っているが、そのコストをよく考える必要がありそうだ。

  
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