今年3月6日に開催された石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国からなるオペックプラス会合では、ロシアとOPECの対立により原油協調減産の合意がなされなかった。これを受け、サウジアラビアは原油増産を宣言、価格競争をしかけ、3月9日原油価格は30%下落した。
直後から「ロシアとサウジの喧嘩のツケを払うのは米国」、あるいは「ロシアはサウジの価格戦争を利用し米国シェール業界に致命傷を与えられるか」と報じられ始めた。減産合意不成立による原油価格下落の影響を大きく受けるのは、コストが高いシェールオイル生産が主体の世界一の産油国米国だからだ。原油価格下落により米国シェールオイルの生産削減を迫るオペックプラスの戦略との見方まであった。
新型コロナによる需要減少がある中でのオペックプラスの減産見送りは、大きな原油価格の下落を招いたことから、4月12日オペックプラスは世界生産量の約10%に相当する日量970万バレルの5、6月の減産に合意し、価格の引き締めに乗り出した。しかし、感染拡大による需要の減少は大きく価格の下落に歯止めがかからない状態になった。
米国では原油の貯蔵設備能力がひっ迫したことから、4月20日、米国の原油価格指標WTIの5月渡し先物価格が1バレル当たりマイナス37.63ドルになった。原油を引き取ればお金がもらえるということだ。たとえば、1万バレル(1590KL)、大型タンクローリー80台分、引き取ると37.63万ドル、約4000万円付いて来る。
原油価格下落が続ければ、エネルギー市場では何が起こるのだろうか。原油価格の下落は他の化石燃料、天然ガス、石炭の下落も引き起こすことになるのが常だが、火力発電コストが下がり、太陽光、風力などの再生可能エネルギーへの投資が減少する、あるいは、ガソリン価格が下がる結果、内燃機関自動車への需要が高まり電気自動車の導入が妨げられるとの指摘がある。本当だろうか。
エネルギー価格がマイナスになる現象
エネルギー価格がマイナスになり、引き取ればお金がもらえることは電力市場では時々ある。送電網が国をまたがり連携している欧州では電力の輸出入が行われているが、時として輸出価格はマイナスになる。たとえば、晴天で風が吹く日には再エネ比率が高いドイツの太陽光、風力発電量が大きくなるが、冷暖房需要がない春の休日などには需要が低迷し、電力供給量を需要量が下回ることがある。供給量が需要量を上回っても停電が引き起こされるので、再エネからの発電量を削減する出力制御を行うか、輸出を行うしか調整の方法はない。その輸出価格は時としてマイナスになっている。輸出先の国でも電力需要がない時には、お金を付けなければ電気を輸出できない。
ドイツからデンマークへの輸出では、ドイツのお金付き電力を引き取るためデンマーク国内で出力制御が行われることもある。欧州内の電力輸出入と同様の出来事は、米国カリフォルニア州からアリゾナ州への輸出でも起こっている。太陽光発電量が全米一のカリフォルニア州では、出力制御と電力輸出で供給量が需要を上回る状態を回避しているが、電力輸出を行う時にはお金を付けなければ引き取ってもらえないことがある。
その時々で需要と供給が必ず一致する必要がある電力卸市場では、時々生じることがある現象だが、原油市場では初めてのマイナス価格だ。それほど、米国の需要減少が大きい一方生産削減は同時には進んでおらず、貯油する場所もなくなってきている。