ドイツでは環境政党・緑の党の支持率が昨年急上昇した。昨年6月の世論調査ではメルケル首相の出身政党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の支持率25%を上回る、26%を獲得し緑の党が一位に躍り出た。国民の間に気候変動、環境問題への関心が高まったための現象だった。特に、若年層で気候変動に取り組む動きが顕著になった。
スウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんが呼びかけた「Fridays for Future」にドイツでも多くの学生・生徒が参加し金曜日に街頭に出て、「いま家は火事になっている。気候変動は喫緊の課題」とデモを行った。ドイツ政府、メルケル首相は、温暖化も重要だが、経済・雇用も重要との立場を取り、欧州委員会(EC)の2030年の再エネ目標値引き上げ、2050年の温室効果ガスの純排出量ゼロ目標設定にも抵抗した(『「脱炭素」ブームの真相 欧州の企みに翻弄される日本』)。しかし、昨年5月下旬の欧州議会選挙における緑の党の躍進を目のあたりにし、ECの2050年の純排出量ゼロ目標に同意し、温暖化対策により注力するように姿勢を変えた。
いま、コロナウイルスの蔓延により、ドイツにおいても感染者は13万人に迫っている(4月13日現在)。コロナウイルスは、気候変動問題への取り組み方法も変えた。金曜日の学校ストライキと街頭デモはなくなり、今はSNS、メールでの活動が推奨され、ホームページでは感染防止の取り組みが紹介されている。経済活動が低迷したため、温室効果ガスの排出量も大きく減っている。
ドイツは、1990年比温室効果ガス40%削減の2020年目標を達成できなくなり、2年前に目標を放棄したが、多くの産業活動が停止している現在の排出量は90年比40%減を達成していると報じられている。仮に、1年を通し40%減が達成されるようであれば、ドイツの経済活動は大きく傷ついているという事だろう。
ドイツ国民もコロナウイルスと経済問題への懸念を深めている。最近の世論調査では温暖化問題に関心を持つ人は激減し、緑の党の支持率も下落した。しかし、今まで導入された再生可能エネルギー設備は、コロナウイルスによる電力需要低迷下でこれから電気料金上昇をを引き起こすことになる。
独連立与党支持率復活
日本でもコロナウイルス対策に関する国、都道府県知事の対応が話題になり、首長の評価が上がったり、下がったりしている。海外でも国民にアピールする対策を取る政治家が評価されている。感染者数は多いものの欧州の中では死亡率が極めて低いドイツでは、メルケル首相率いる連立与党の評価が高まり、CDU・CSUは無論のこと連立を組む社会民主党(SPD)の支持率も大幅に上昇した。
今年3月下旬の世論調査(RTL/ntv)では、今選挙があれば、どの政党に投票するかの質問に対する政党別支持率は以下の通りだった。
CDU・CSU 36%
緑の党 17%
SPD 16%
ドイツのための選択肢 9%
Linke 8%
FDP 6%
ドイツの問題を解決するには、どの政党が望ましいかとの質問では、40%がCDU・CSUと答え、次いでSPDが7%を得ている。緑の党は5%を得たのみだった。その他の政党が5%、どの政党も信頼できないとの回答が43%を占めた。4月上旬の調査では、CDU・CSUが更に支持を伸ばし43%、緑の党3%になった。緑の党が支持を失った背景にはコロナウイルス危機に直面したドイツ国民が気候変動問題に関する関心を急速に失ったことがある。
気候変動問題に関心を失うドイツ国民
2019年7月の世論調査「ドイツの問題は何か(複数選択可)」(RTL/ntv)では、最大の問題として国民が挙げたのは気候変動だった。37%が選択した。次いで移民・難民29%、政治家・政党25%、貧困・社会保障13%、教育11%、住宅11%、年金11%、右翼・外国人排斥10%だった。旧東ドイツと西ドイツでは違いがあり、西では気候変動問題が一位だったのに対し、東では、一位は移民・難民問題36%、気候変動は28%に留まった。
今年3月の調査では、ドイツの問題としてコロナウイルスをあげた人が68%、次いで経済状況が31%、移民・難民問題13%、気候変動はわずか9%に落ち込んだ。コロナ危機による経済状況の悪化により、ドイツ国民は気候変動問題を忘れてしまったようだ。気候変動問題に関心を失い、経済が重要と考える国民が増えているが、皮肉なことに2年前に放棄された2020年の温室効果ガス排出目標を上回る削減も予測され始めた。
2008年9月に発生したリーマンショックにより、2009年ドイツの国内総生産はマイナス5.6%となり、温室効果ガスの排出量は7000万トン、7%減少した。今年のドイツの排出量は、コロナウイルスの影響を受ける期間によるが、経済が低迷しエネルギー消費が落ち込むことから、5000万トンから1億2000万トン減少し1990年比40%から45%減になるとの予測が独研究機関により出されている。
低迷する電力需要は温室効果ガス排出量を削減したが、一方で太陽光、風力発電比率が高いドイツでは、電気料金上昇を引き起こすことになりそうだ。