脱炭素バブル したたかな欧州、「やってる感」の日本

2020年3月31日

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 ロシアの国営企業・ガスプロムと欧州企業5社は、ロシア・ドイツ間の天然ガス輸送能力を倍増させるパイプライン「ノルド・ストリーム2」の建設を2017年に合意し、現在工事を進めている。総工費約100億ユーロ(1.2兆円)の50%は欧州企業が融資する。

モスクワで開かれた独露首脳会談。新たな天然ガスパイプラインの完成により、両国は関係をより深めていく (MIKHAIL SVETLOV/GETTYIMAGES)

 輸送能力年550億立方メートルは、現在のドイツのロシアからの天然ガス購入量とほぼ同じだ。ノルド・ストリーム2により、ドイツはロシアからの天然ガス輸入量をさらに増やし、エネルギー依存の構造を深めようとしている。これに嚙みついたのがトランプ米大統領だった。

嚙みついたトランプ
「ドイツはロシアの捕虜」

 18年4月、トランプ大統領はバルト3国の大統領との面談時に「ロシアに巨額資金をもたらすノルド・ストリーム2に反対」と初めて表明したが、その後ドイツに対しても批判を強めることになる。

 同年7月、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席したトランプ大統領は、NATO事務総長との面談時、「ドイツはエネルギー需要(筆者注・天然ガス需要の勘違いだろう)の60~70%を新パイプラインによりロシアに依存することになる。ロシアにコントロールされ、捕虜になっている」と非難したと報道された。メルケル独首相は、「ドイツは独立国だ」と反論したが、米国は制裁を匂わす行動を取る。

 シェール革命により世界最大の天然ガス生産国になった米国は、天然ガス輸出が可能になり、アジア、欧州向けにLNG輸出を開始している。トランプ大統領のロシア依存批判の背景には欧州向け米国産LNG輸出増の狙いがあったのも間違いない。

 米国内ではロシアが欧州内で影響力を高めることに懸念が高まり、19年5月に共和、民主両党の上院議員が「ロシアはエネルギーを武器にしている」として、ノルド・ストリーム2などの工事を請け負い、海底パイプライン敷設を行っている企業、個人の資産凍結とビザ発給停止の制裁措置を盛り込んだ「2019欧州エネルギー安全保障保護法案(PEESA)」を提出した。7月にPEESAは20対2の圧倒的多数により上院外交委員会を通過。

 その後、PEESAは「2020国防授権法(NDAA)」の中に盛り込まれて上下両院を通過し、トランプ大統領の署名により19年12月に成立した。制裁対象企業と個人は60日以内に発表される。

 全長約1220キロメートルのノルド・ストリーム2の完成まで、デンマーク沖の160キロを残すだけになっていたが、2隻の船を利用しパイプの敷設を行っていたオールシーズ社(本社スイス)は、制裁を恐れて作業を中断した。ドイツ紙は、プーチン露大統領が「完工は5、6カ月遅れることになる」と12月25日に語ったと報道した。完工は当初の今年前半から後半以降にずれ込む見込みだ。

米国からの制裁を受けノルド・ストリーム2の完成は遅れる (REUTERS/AFLO)

 しかし、そんな米国からの制裁にも、ドイツはどこ吹く風だ。EUの報道官は、米国のノルド・ストリーム2に対する制裁を「適法に事業を行っているEU企業に制裁を課した」と非難し、メルケル首相の報道官は「ベルリンはこの種の域外からの制裁を拒否する」と述べた。今年1月11日、メルケル首相がモスクワを訪れ、プーチン氏と3時間以上にわたる会談に臨んだ。そこで、米国による制裁にかかわらずノルド・ストリーム2を完工できる旨を強調した。

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